フォード、AI導入で品質低下 熟練エンジニア再雇用に転換
米フォードが2026年6月25日に発表されたJDパワーの新車初期品質調査(IQS)で主流ブランド部門首位(百車当り152件)となり、16年ぶりにトップ復帰を果たした。しかしこの結果の背景には、AI過信と熟練エンジニア削減が招いた品質低下の苦い教訓がある。 2022年から2023年にかけて、フォードは自動化推進を名目に北米で多数の工程エンジニアを解雇した。CEOのジム・ファリー氏は当時「AIがホワイトカラーの半数を置き換える」と断言し、生産ラインのAI画像検査や熱テスト異常検知を強化した。標準検査では効果が表れた一方、設計検証やシステム整合性の判断など熟練者の暗黙知が不可欠な意思決定層でのAI依存が品質基盤を脆弱化させた。開発サイクルの滞后により、2025年には約1,300万台、2026年に入っても51件で1,100万台以上がリコール対象となり、米国最多を維持していた。 チャールス・ポン車両ハードウェア工程副社長は「AIは訓練データ質に依存するが、データ生成以前に経験豊富なエンジニアが離脱し、システムは不完全な知識しか学習できなかった」と認め、過去3年間で約350名のベテランエンジニアを再雇用した。現在、AI自動テスト導入を続ける一方、予防的品質管理へ転換し、新設の専用チームが生産前段階で設計欠陥を捕捉する体制を構築中だ。 フォードの事例は業界全体の構造的課題を浮き彫りにしている。AI裁員は即時の財務改善をもたらすが、品質劣化という代償は数期遅れて顕在化する。標準業務の効率化は認めつつも、設計判断領域では人間の経験知をAIに転嫁するプロセスが不可欠であることを、フォードは現場の失敗から学んだ。
