インドネシア金融業界に迫るエージェンティックAI:実装の機会と規制下の課題
2025年10月16日、ジャカルタで開催された「Agentic AI for Finance Conference」に参加し、インドネシアの金融業界におけるAIの活用と課題について学んだ。同会議はアルゴリズマ・データサイエンス・スクールが主催し、銀行、保険、フィンテック、政府機関、AIスタートアップの専門家が集まり、Agentic AI(自律型AI)の実用化に向けた議論が交わされた。インドネシアに限らず、東南アジアや世界の金融業界に共通する課題と機会が浮き彫りになった。 まず、AI導入のROI(投資対効果)の測定は困難である。AIの効果は複数の部門やプロセスに分散するため、単独の貢献を明確にすることは難しい。そのため、ROIに加え、Return on Value(ROV)や「行動しないコスト(COI)」の視点が重要になる。COIは、AIを導入しないことで生じる知識格差、人材獲得の難しさ、学習機会の喪失、競合との差の拡大を示し、遅れは実質的な損失を意味する。 次に、金融業界の特徴である厳格な規制とデータ保護が大きな障壁となる。インドネシア金融庁(OJK)は、銀行のデータセンターと災害対策施設を国内に設置することを義務付けており、クラウド利用に制限がある。このため、多くの機関はオンプレミスやハイブリッドインフラでAIを運用。セキュリティとコンプライアンスは、AIの導入前提条件であり、失敗のコストは財務的・信用的損失として顕在化する。 一方で、Agentic AIの実用例も登場した。金融レポートの自動生成では、複数の専門AIエージェント(市場分析、企業報告、データ可視化など)が協働し、自然言語で質問を受けて数秒でPDFやスライド形式のレポートを生成。信頼性の確保には、事実に基づくデータソース(例:Sectors.appのAPI)の活用が不可欠。また、インドネシア監査院(BPK)はAIを活用したBIDICSプラットフォームを構築。大量の監査文書をAIで解析・要約し、リスク評価や計画立案を支援。最終判断は人間が行う「人間を含むループ」を採用しており、安全性と責任の所在を確保。 法律分野では、NOTAPOSがAIで法務文書の作成・管理を自動化。従来18時間以上かかっていたプロセスを30分に短縮。しかし、技術の急速な進化により、今すぐ開発を始めるか、次の進化を待つかというジレンマも生じる。この点で、COIの視点が重要。遅れは、学びの機会を失うリスクを伴う。 最後に、AIが人間を置き換えるかという問いに対して、参加者たちは「人間を補完する」姿勢が共通する。AIは反復作業を効率化し、従業員は顧客対応や戦略的判断にシフト。しかし、変化への抵抗やスキル不足は課題。企業は人材育成とリーダーシップの強化が不可欠。 結論として、Agentic AIは金融業界に大きな可能性をもたらすが、規制、セキュリティ、人間の適応力がその基盤となる。技術の進化は止まらないが、学びと行動の継続こそが、変化に適応する鍵である。
