AI幻覚の引用を研究不正として扱うべき
2026年10月27日、英科学誌ネイチャーの書簡欄に、人工知能が生成した誤った引用文献を含む論文は研究不正として扱うべきだとする主張が掲載された。投稿者はエストニア・タルト大学のヤン・ピセク氏で、生成AIの誤情報生成、いわゆるハルシネーションが学術出版やプレプリントの信頼性を損なう深刻な問題として浮かび上がっていることを背景に、厳格な対応を求めた。 発端となったのは、ネイチャーが直近で報じたプレプリントサーバー「arXiv」の対応だ。arXivでは、AIツールによって作られた虚構の参考文献を含む論文の投稿を禁じる方針が取られている。生成AIの利用が研究執筆に広がる中で、研究者が実際に存在しない文献や誤った出典を本文に混入させる事例が増加し、プレプリントの品質管理や査読体制に新たな負荷が生じている。今回の投稿は、こうした対応を単なる投稿規則の遵守にとどめず、科学的誠実性にかかわる原則の問題として位置づける意義がある。 ピセク氏は、AIによって生じた誤引用を偶然の過失として処理すると、研究者の責任が曖昧になり、虚偽の文献を基にした主張が学術空間に拡散する危険が高まると指摘する。プレプリント段階の論文は査読を経ていない場合が多く、誤った引用が誤った結論を補強する形式を持つと、その後に修正・撤回されても学界全体への影響が残り得る。そのため、AI利用を禁止する方向だけでなく、利用時の検証義務や投稿者の確認責任を明確にし、研究不正に準じる扱いを可能にする枠組みが必要だとした。 この主張は、生成AIが研究倫理や出版規範に与える影響を改めて浮き彫りにしている。arXivを含むプレプリント各社は、自動 Moderation や投稿者への明示的な注意喚起を強化しており、AI由来の虚構引用は新たな査読課題として定着しつつある。学界では、利用禁止と利用統制のどちらに重心を置くかで議論が続いているが、ピセク氏は虚構引用に対して明確な制裁的基準を設けることで、研究データの真偽以前に文献の存在が検証される基盤を守れると主張した。
