科学者、インフルがヒト細胞内部を改変する仕組み解明
欧州分子生物学研究所(EMBL)ハンブルク拠点とライプニッツ分子薬理研究所(FMP)、チャリテ・ベルリン大学病院の共同チームは、インフルエンザAウイルスがヒト細胞のタンパク質ネットワークをどのように乗っ取るかを、生きた細胞内で直接的に解明した。成果は学術誌Nature Microbiologyに掲載された。 従来の細胞破砕法では、細胞内特有の瞬時的な相互作用や局所的な結合が検出できない課題があった。研究チームは、感染細胞のままタンパク質結合を捕捉する交差連結質量分析(XL-MS)技術を導入。さらに改良型AlphaFoldと組み合わせ、実験データに基づくウイルスと宿主タンパク質の結合構造モデルを構築した。 解明された乗っ取りメカニズムは主に二つだ。一つはウイルス表面のヘマグルチニンが、宿主の輸送・処理系を通過する過程で、未知の機能を持つ宿主タンパク質と相互作用し、正しい折り畳みと修飾を受ける経路の特定である。もう一つは細胞核内のパラスペクトル(液状小器官)の溶解だ。感染によりこの構造が分解されると内部のRNA結合タンパク質が放出され、ウイルス複製に利用される。同構造は細胞の抗ウイルス応答にもかかわるため、その破壊はウイルスの免疫回避戦略である可能性が高い。 EMBLのヤン・コシンスキ研究グループリーダーは、この生細胞内マッピング手法が創薬・ワクチン開発の標的同定に寄与すると指摘。FMPのボリス・ボグダノフ氏は、本手法をH5N1などの高病原性ウイルス解析にも展開し、パンデミック脅威に対する分子基盤を構築すると強調した。本研究は、生体コンテキストでのウイルスと宿主の相互作用解析に新たな基準を提示するものとなる。
