AIが解析した細胞データでマウス脳の新領域を発見 新たな神経地図の時代へ
神経科学の分野で、人工知能(AI)が脳の微細な構造を解明する画期的な役割を果たしている。アレン研究所の神経科学者・ゲノム研究者であるボシルジャカ・タシッチ氏らの研究チームは、マウス脳の1040万個の細胞から得られた遺伝子データをAIに投入し、従来の手法では不可能だった高精度な「脳の地図」を構築した。このAIは、細胞の遺伝子発現パターンを分析し、周囲の細胞との関係性から「細胞の集落(ニューロン・ネイバーフッド)」を自動で特定。人間の目では見つけられない微細な領域まで識別し、25から1300以上の新たなサブ領域を同定した。 このAIモデル「CellTransformer」は、1つの細胞の遺伝子情報を隠して、周囲の細胞からその性質を予測する学習を繰り返すことで、細胞の配置パターンを学習。マウス脳のストライアトム(運動や報酬に関与する領域)など、従来「一つの大きな構造」として扱われていた領域が、複数の機能別サブ領域に分かれていることを明らかにした。また、脳幹にある運動開始に関与する「中脳網様核」にも4つの新規領域を発見。これらは以前の解析では別の場所に分類されていた細胞が集まっていた。 研究チームは、AIが生成した地図が既存の手描き地図(アレンマウス脳共通座標フレームワーク)とよく一致することを確認。さらに、過去の神経接続解析と一致する点も発見され、信頼性が裏付けられた。この手法は、人間の脳にも応用可能とされ、将来的には健康な脳と疾患(例:アルツハイマー病)の違いを、細胞レベルで解明する手がかりになる。 研究者たちは、AIを「人間の補助者」と位置づけ、脳の構造理解を劇的に加速すると期待している。今後は神経接続データや他の臓器への応用も視野に入れており、AIが脳だけでなく、人体全体の細胞地図を描く鍵となる可能性がある。
