セルラリティ、ネイチャー・コミュニケーションズに薬物安全性を予測する画期的フレームワークを発表
マサチューセッツ州サマービルに拠点を置く臨床段階のバイオテクノロジー企業、セルラリティ(Cellarity)は、Nature Communicationsに論文を掲載し、AIと多オミクス技術を統合した新規肝毒性予測フレームワーク「ToxPredictor」の開発と実証を発表した。この研究は、薬剤誘発性肝障害(DILI)の予測とメカニズム解明に革命をもたらす可能性を示している。DILIは新薬開発における最大の安全性課題の一つで、臨床試験で発現する肝障害は、前臨床段階の動物実験では半数以上が見逃され、治験中止や市販中止に至るケースが後を絶たない。この課題に対応するため、セルラリティは、人間の肝細胞(primary human hepatocytes)を用いた300種類のDILI関連化合物の転写子スイッチを網羅した「DILImap」と呼ばれる転写子ライブラリを開発。これは、DILIモデル構築に向けた世界最大規模の毒性ゲノミクスデータセットとして注目されている。 このデータを基に構築されたAIモデル「ToxPredictor」は、盲検評価において88%の感度と100%の特異度を達成し、20以上の業界標準モデルを上回る性能を示した。特に、動物実験では検出できなかった第3相臨床試験での安全性失敗事例を複数特定した点が顕著であり、従来の単一エンドポイント評価や3Dモデルでは捉えきれない非細胞毒性リスク(例:ミトコンドリア機能障害、酸化的ストレス、免疫活性化、代謝変化など)も網羅的に検出可能である。これにより、化合物の安全性マージンの判断や、肝毒性の根本的なメカニズム理解が飛躍的に進む。 セルラリティは、このモデルと検証データをすべてオープンソースとして公開し、www.dilimap.orgにて誰でも利用可能にしている。これは、新薬候補のリスク低減を促進する協働基盤としての役割を果たし、規制当局が動物実験依存を減らす方向に進む中で、新しい安全性評価のパラダイムを形成する可能性を秘めている。 セルラリティは2019年にフラッグシップ・パイオニアリングによって設立され、細胞全体の機能不全を修正する「セル状態補正療法」を核に、AIと多オミクスを融合した独自の創薬プラットフォームを展開。主な候補薬CLY-124は、グロビンスイッチング機構によりサルコイド性貧血を標的とした第1相臨床試験中。また、ノボノルディスクと提携し、代謝性機能不全関連脂肪肝炎(MASH)の治療薬開発も進行中。専門家は、AIとトランスクリプトミクスの統合が、効率的で安全な新薬開発を実現する鍵になると評価しており、今後の医薬品開発の質とコスト効率に大きな影響を与えると予想されている。
