神経チップ、脳領域間の相互作用を解析する
スイス連邦工科大学ローザンヌ校の研究チームは、脳領域間の通信をリアルタイムで解析し、認知状態や感情状態に応じて脳深部刺激を調整できる低消費電力の埋め込み型神経チップ ログシンクを開発した。脳深部刺激はパーキンソン病などの運動障害で実用化されているが、重度のうつ病、心的外傷後ストレス障害、強迫性障害などの精神疾患への応用も期待される。従来の多くは事前に設定した条件で刺激する開ループ方式で、適応型でも単一領域の信号に依存する例が多かった。精神疾患は単一脳領域の異常より、複数領域間の相互作用の乱れに起因する可能性が指摘されており、ネットワーク全体の活動を追う技術が求められていた。 ログシンクは、複数領域の脳波振動の強さと信号間の同期をバイオマーカーとして抽出し、機械学習アルゴリズムで認知・感情状態を分類する。特定の状態が検出されると、脳活動の適切な位相で刺激を開始する設計となっている。人間からの記録データでは、認知課題中の集中と映像視聴時の感情高揚を判別し、ラット実験では継続的な振動追跡と刺激トリガー生成に成功した。チップは約4×2ミリメートルで、対数演算による処理の簡略化とアルゴリズム・ハードウェアの協調設計により、消費電力を200マイクロワット未満に抑えた。 研究は米国国立精神保健研究所の助成を受け、固体回路専門誌に発表された。精神疾患向けの適応型刺激にとどまらず、運動障害向けの閉ループ脳深部刺激、非侵襲刺激、集束超音波など次世代神経技術への応用も有望だ。研究チームは自己教師あり学習で複数領域、チャネル、時間方向の脳活動を捉える手法も開発し、スピンオフ企業イフェラ・ニューロを通じて臨床応用を加速している。