AI業界に復活する「YOLO」:急加速する開発と安全への懸念が対立
「YOLO」——2010年代の流行語が、再びAI業界の中心に浮上している。元々はドレイクの楽曲『The Motto』(2011年)で広まったこの言葉は、当時は若者文化の象徴だったが、やがて「無責任な行動」の代名詞として冷え込み、時代遅れと見なされてきた。しかし今、AI開発の現場で再び登場し、業界のリスクマネジメントに対する懸念を象徴する言葉となっている。 先週、ニューヨーク・タイムズ主催のDealBookサミットで、AnthropicのCEOであるダリオ・アモディ氏が競合企業への批判として「一部のプレイヤーは『YOLO』的にリスクを押し進めている」と指摘。特にOpenAIやMetaらが、モデル開発において過度なスピードとリスクを取っていると警鐘を鳴らした。一方で、自身の企業は「できる限り責任ある成長」を追求していると強調した。 この言葉は研究現場でも使われ始めている。Metaの研究者ジェイソン・ウェイ氏はX(旧Twitter)に、「YOLOラン」という表現を用いて、直感に基づいて大胆なモデル構築に挑む研究者の姿を描写。通常の段階的検証とは異なり、ハイパーパラメータの設定やモデル構造の決定を直感に頼り、チームの他のメンバーには理解されにくい選択を下すという状態を指す。これは「インスピレーションの流れ状態」とも形容される。 ハーバード大学のジョナサン・ジットレイ教授も、AI業界の開発モデルを「YOLOモデル」と呼んで、起業家やVCが「試してみるだけ」でアイデアを投げかけ、失敗しても次に進む、成功すれば利益を得るという急進的な文化を批判。AIが社会に与える影響が甚大であることを踏まえ、「この開発モデルは、もはや許されるべきか?」と問いかけた。 一方で、AIへの投資は歴史的高水準。Amazon、Google、Meta、MicrosoftはAI用チップ、サーバー、データセンターに記録的な支出を続け、S&P500やナスダック指数も上昇を続けている。しかし、こうした競争の陰で、AIのリスクに対する警戒が追いついていない実態がある。AIの「父」とも称されるジェフリー・ヒントン氏は、先月のゲイロード大学での会議で、AIの急進的発展が大量失業や社会格差の拡大、人間関係の変質を引き起こす可能性を警告した。 米証券取引委員会(SEC)に提出された報告書を分析した結果、10億ドル以上の評価額を持つ企業のうち418社がAIのリスクを「企業評判やセキュリティの脅威」として公表。一方で、AI倫理責任者やガバナンス専門家の導入は遅れている。 「YOLO」の再登場は、AI開発のスピードと安全のバランスが、今まさに問われていることを示している。
