AIの発展に電力が最大の壁に 高盛が120億ドルのデータセンター建設コストと2030年向け160%の電力需要急増を警告
高盛が発表した報告書『AI時代を駆動する』は、人工知能の発展を阻む最大の障壁が「電力供給」であると指摘している。250メガワット規模のAIデータセンターの建設コストは平均120億ドルに達し、2030年までに全球のデータセンター電力需要は160%増加すると予測される。これにより、既存の電力網は大幅な負荷増に耐えられず、インフラ整備の遅れが深刻な課題となっている。 高盛は、19世紀の鉄道、20世紀の電気化、21世紀のインターネット時代を振り返り、それぞれの時代に共通する「インフラ投資の波」が今、AIに移行していると分析。特にAIデータセンターは、従来のクラウド施設と異なり、GPU密集型の構造により単機架の消費電力が500キロワットを超える「AI工場」へと進化。冷却には液体冷却が不可欠となり、エネルギー効率の向上は限界に達している。 訓練と推論のニーズの違いも影響する。訓練用データセンターは電力コストが低い地域(例:テキサス州、北欧)に集中するが、推論は低遅延を要求するため、ユーザーに近い場所に設置される必要がある。このため、電力供給の安定性と地理的戦略が、AIの実装スピードを左右する。 電力供給の遅れは、米国における新規発電所の建設に5〜7年かかるなど、規制・手続きの複雑さに起因。再生可能エネルギーの間欠性(「鴨子曲線」)も電網の安定性を脅かしており、基幹電源としての火力・原子力の縮小が進む。これに対し、AI企業は自ら電力供給を担う「表後電力」戦略を採用。MetaとEntergyの共同開発、Microsoftによる三里島原発の再稼働支援など、長期電力契約や自前発電の動向が加速している。 高盛は、2030年までに新設電力の60%を新規発電で賄う必要があると予測。その構成は、30%が天然ガス、30%が太陽光・風力、12.5%が原子力、残りが储能技術に依存する見通し。小型モジュール型原子炉(SMR)やナトリウムイオン電池といった新技術も注目される。 地政学的視点では、データセンターの立地が国際競争力の鍵となる。中東や南米(例:ブラジル)が新興拠点となりつつある一方、電力不足地域への設置は環境・社会的課題を引き起こす。資本市場では、EquinixとGIC、CPPIBが共同で150億ドル規模の合弁会社を設立するなど、公私連携による資金調達が主流化している。 報告書は「AIの未来は、電力とインフラの整備速度にかかっている」と結論づけ、技術の進化だけでなく、政策、金融、地政学の連携が不可欠と強調。このインフラ競争は、単なる投資の話ではなく、次世代技術社会の成否を左右する大転換期である。
