AIが密度汎関数を学習し、液体の化学ポテンシャルを高速に予測
バイロイト大学の研究チームが、人工知能(AI)を活用して液体の物理的性質を大幅に高速に計算する新手法を開発した。この方法は、液体の熱力学的平衡状態を記述する上で不可欠な「化学ポテンシャル」を、従来の計算よりもはるかに効率的に予測できる。研究成果は、物理学者の頂点誌『Physical Review Letters』に掲載された。 従来のAIアプローチは、画像認識のように、大量のデータを用いて特定の出力(例:猫の画像かどうか)を直接学習する「教師あり学習」に基づく。しかし、化学ポテンシャルは計算コストが極めて高く、直接学習することは現実的ではない。これを解決したのが、バイロイト大学理論物理学II chairのマティアス・シュミット教授と研究員フロリアン・サムミュラー氏の新手法だ。 このAIは、化学ポテンシャルそのものを学習するのではなく、液体やソフトマターに共通する「普遍的な密度汎関数」を学習する。これは、液体の内部構造と物理的法則を根本から記述する理論的枠組みであり、表面の材質や形状が異なっても、液体の本質的な振る舞いは同じであるという事実に基づく。たとえば、同じ液体が異なるパターンを持つ基板上に広がる場合でも、その本質的な物理則は変わらない。 AIが学習した密度汎関数は、観測可能な物理量(粒子密度分布や外部ポテンシャル)との間に残る差異を記述する。この差異はAIモデルによって埋められず、代わりに熱力学的安定性の原理から導かれる物理的制約によって一意に決まる。結果として、化学ポテンシャルは間接的だが、理論的に整合性を持つ形で導出される。 「まるで猫の画像を一度も見たことのないAIが、猫を認識できるかのように」とサムミュラー氏はたとえる。この手法は、データ駆動のAIと理論物理学の深層的な理解を融合させ、従来の数値計算を数倍から数十倍に加速することが可能となる。液体の挙動解析や材料設計、ナノスケールの界面現象研究など、幅広い分野での応用が期待される。
