AI、新物理学発見へ旧理論を「忘却」
標準宇宙論モデル(ΛCDM)の限界を探る新物理探索において、機械学習の転移学習が計算コストを大幅に削減する可能性が実証された。プリンストン大学とフラットアイアン研究所の研究者らは『Journal of Cosmology and Astroparticle Physics』で、宇宙論シミュレーションに転移学習を適用する手法を発表した。 新物理の検証には従来のモデルとは異なる仮説に基づく高精度シミュレーションが不可欠だが、計算負荷は極めて高かった。本研究では、計算コストの低い標準モデルのシミュレーションでニューラルネットワークを事前学習させ、その後ニュートリノ質量や修正重力などの複雑なモデルへ転用するアプローチを採用した。フラットアイアン研究所のアドリアン・バイヤー氏は、基礎学習を経て応用へ進む効率的な手法だと説明する。 結果、転移学習により高コストシミュレーションの必要数が10倍以上削減された。一方でネガティブ・トランスファーのリスクも浮上した。新物理の効果と既存パラメータ(σ8など)が類似する場合、AIは事前学習の分類基準に依存して新現象の識別が困難になる。同大のヴェーナ・クリシュナルラジ氏によれば、これは物理パラメータの統計的退化に起因する確定的な現象であり、新たな対策が課題だ。 本手法は現在シミュレーションで検証済みだが、次世代宇宙観測データの分析基盤として期待される。生成AIと概念的に類似するファウンデーションモデルの応用は、計算効率の向上をもたらす一方、モデルが既存知識に縛られ新発見を阻害する可能性があることを示し、基礎物理学へのAI活用における重要な知見を提供した。
