深層学習が標準NTAでナノ粒子形状を判別
東京大学とナノメディシン革新研究機構(iCONM)の市木隆徳教授チームは、標準的なナノ粒子追跡分析(NTA)装置の出力データのみを用い、人工知能によるナノ粒子の形状分類に成功した。この研究成果は学術誌「ACS Applied Nano Materials」に掲載された。従来のNTA計測では、散乱光の軌跡のみを解析して粒子サイズを算出するのが主流だが、実際の計測データには強度変動の情報も含まれている。研究チームはこの未活用情報を抽出するため、ブラウン運動の軌跡と光強度の時系列データを統合する深層学習モデルを開発した。1次元畳み込みネットワークと双方向長短期記憶ネットワークを連携させることで、粒子ごとの運動パターンと光学的特徴を同時に学習させた。 金ナノ粒子の球状、棒状、板状の三形態を用いた評価では、二分類で82%以上、三形態を同時に識別する多分類で約80%の正解率を記録した。従来の統計的手法を大きく上回るこの精度は、わずか0.2秒から1秒という極短時間の計測データでも安定して維持される。本手法の最大の特徴は、新機種の導入や装置の改造が一切不要な点にある。既存のNTAシステムにソフトウェア解析を適用するだけで、液体環境中のナノ粒子の形状情報まで抽出可能となり、研究インフラの負担増なしに分析能力を高度化できる。 ナノ粒子の形状は拡散挙動や生体相互作用、薬剤送達効率に直結するため、高スループットな形状評価の実現は医療・産業現場で大きな意味を持つ。市木教授は、本技術を将来のNTAシステムに組み込み実用化を進めると述べている。サンプル量が少ない環境下でも短時間で高精度な分類が可能なため、ナノ医薬品の品質管理、細胞外小胞などの生物由来ナノ粒子の特性解析、環境モニタリング、コロイド材料の評価など、幅広い分野での標準プロトコル革新が期待される。既存計測ツールのデータ活用をAIで拡張する本アプローチは、新たな機材投資なしにナノ粒子研究のポテンシャルを解き放つ可能性を秘めている。
