自然言語 AI、化学者が分子設計を段階的に行う支援
EPFL のPhilippe Schwaller 氏らの研究チームは、化学的分子設計を支援する新システム「Synthegy」を開発しました。従来の化学合成計画では、複雑な反応経路の逆算(逆合成)や電子の動きを詳細に記述する反応機構の解明が課題となっていました。既存の計算ツールは膨大な可能性を探索できますが、人間のような戦略的推論や直感的な化学的勘所を欠く傾向がありました。この課題に対し、Synthegy は大規模言語モデル(LLM)を推論エンジンとして活用し、AI が化学構造を直接生成するのではなく、従来の計算ツールを評価・誘導するアプローチを採用しています。このシステムは、専門家が自然言語で目標を指示できるため、煩雑なフィルタやルール操作を不要にし、開発プロセスを大幅に効率化します。具体的には、研究者が「特定の環状構造を初期段階で作成する」や「保護基の使用を避ける」といった具体的な要求をテキストで入力すると、Synthegy は複数の合成経路を生成し、LLM が各経路がユーザーの意図にどれだけ合致するかをスコアリングし、その理由を説明します。反応機構の解析においても同様に、電子の移動ステップを自然言語で評価し、化学的に妥当な経路へと探索を誘導します。双盲テストにおける専門家の評価では、368 件の評価のうちシステムのアセスメントと 71.2% の精度で合致し、不要な保護基の除去や反応の実現可能性の判断において高い信頼性を示しました。さらに、より大規模で高度なモデルほど性能を発揮することが確認されています。Synthegy は、LLM を生成器ではなく評価者として位置づけることで、化学的戦略と反応機構の間のギャップを埋めることに成功しました。この技術は創薬研究の加速や反応設計の改善、そして高度な計算ツールの研究者へのアクセス向上に寄与するものと期待されています。
