AIの本質とは何か?―距離が生む形状の謎
人工知能の実態とは何か――その姿は、遠くから見ることで初めて明らかになる。 物事の形状は、距離があるからこそ読み取れる。歴史の事例を見てみよう。西ローマ帝国が西暦476年に滅亡したという一文は、当時から「事実」として認識されたわけではなく、後世の歴史家が数世紀にわたる政治的・行政的崩壊の流れを、時系列の前後を繰り返し観察し、一連の変化をまとめて「終わり」という形にまとめた結果である。ロムルス・アウグストゥスの退位という出来事は確かに476年に起きたが、それが「帝国の終焉」として定着したのは、その時系列的背景が遠くから見渡せるようになってからだ。 空間的な距離も同様の効果を持つ。ペルーのナスカ砂漠に残る巨大な地上絵「ナスカの線」は、地表から見るとただの線の集合にすぎない。しかし、空から見下ろすと、ハチドリやクマ、人間の姿といった明確な形状が現れる。このように、細部の情報だけでは理解できない全体の形は、視点を遠くに置くことで初めて把握できる。 AIもまた、その本質はまだ遠くから見ることでしか捉えられない。AIは今や70年の歳月を経ているが、ChatGPTの登場は5年前、Transformer論文の発表は8年前、AlexNetによるImageNet勝利は13年前に過ぎない。つまり、深層学習の革命はまだ「道半ば」にある。現時点でのAIの姿は、まだ全体像として整っていない。その真の形は、技術の進化を俯瞰し、長期的な変化のパターンを読み取ることで、ようやく見えてくるだろう。
