クズ・アイスダンスペア、AI音楽でオリンピック初出場 「90年代風」の違和感が注目
チェコのアイスダンスペア、カテリーナ・マラツコヴァとダニエル・マラツェクが、北京オリンピックのリズムダンスでAI生成音楽を使用して初出場を果たした。このプログラムは、1990年代の音楽・ダンススタイル・感情をテーマにしたルールに沿って構成されており、同ペアは「AIによる90年代風ボン・ジョヴィ風の『One Two』」とAC/DCの「Thunderstruck」を組み合わせた音楽を採用。国際スケート連盟(ISU)の規定ではAI音楽の使用は認められており、問題はないとされるが、その事実が競技の本質に疑問を投げかけている。 NBCの解説者も「このパートはAI生成音楽です」と一言述べ、その事実が、選手たちの驚くべき技(空中回転や超人的なキャッチアップ)よりも、さらに衝撃的だと指摘した。これは、AIが人間の創造性を模倣する力の高さを示す一方で、本物のアーティストの努力とオリジナリティが希薄化しているという危機感を呼ぶ。 実はこのペアは過去にもAI音楽の使用で批判を受けてきた。シーズン初めには、ニューレディカルスの「You Get What You Give」の歌詞をほぼそのまま再現したAI生成曲を用いていた。同曲の「Every night we smash a Mercedes Benz!」「Wake up, kids/We got the dreamer’s disease」など、明確に元曲のリズムと歌詞を模倣した内容が、AIの学習データの再構成による「統計的類似性」の証左となった。その後、同ペアは歌詞を「Raise Your Hands, set the night on fire」といったボン・ジョヴィ風の表現に変更。しかし、これは実際には1990年代に発表された曲ではなく、AIが学習したデータの偏りを反映している。 この現象は、大規模言語モデル(LLM)が訓練データに基づき「最も確率の高い出力」を生成する仕組みによるものだ。音楽生成AIも同様に、過去のヒット曲のスタイルや歌詞を再現する傾向が強く、本物のアーティストの著作権や個性が曖昧になるリスクをはらんでいる。 一方で、音楽業界はAIアーティストへの関心を高めている。ミシシッピ州のアーティスト・テリシャ・ジョーンズは、AI音楽生成ツール「Suno」を使って自身の詩を「Xania Monet」というキャラクターで音楽化し、300万ドルのレコード契約を獲得。AIによる創造性の可能性は広がっている。 だが、マラツコヴァ・マラツェクペアのオリンピック出場という、数十年にわたる努力の結晶が、AI音楽の使用という議論に影を落とすのは、スポーツの本質である「人間の創造性と表現」への疑問を突きつける。競技は技術と芸術の融合であるはず。AIが「使える」からといって、それが「すべき」なのか。その問いは、今後のスポーツと技術の関係を問う、重要な一歩となっている。
