AI導入が進む中、米国で「雇用なしの成長」が定常化へ
ゴールドマン・サックスの経済分析チームが、米国経済が「雇用なしの成長(Jobless Growth)」時代に入りつつあると警告している。この現象は、GDP成長は堅調だが、雇用創出は限定的という構造的変化を指す。経済学者のデビッド・メリクルとピエルフランチェスコ・メイが執筆した内部メモによれば、今後もこの「小幅な雇用増加と堅調なGDP成長」のバランスが新たな常態となる可能性が高い。その成長の主因は、企業による人工知能(AI)の導入にあり、人口高齢化と移民減少による労働力供給の伸びは限定的だという。 現状、新卒や長期失業者を含む多くの人々が就職活動に苦戦している。AIが大量の労働者を置き換えたという実証的証拠はまだ乏しいが、トランプ政権時代の関税政策などによる雇用抑制の影響も大きい。一方で、AIの普及が入門級の職種の求人を大幅に減らしており、特に新規参入者にとっての入り口が狭まっている。つまり、既存の職にいる人を追い出すというよりは、昇進の階段を引き上げる形で、若手のキャリア形成を阻害している。 この状況は短期的には問題だが、長期的には深刻なリスクを孕む。上位職には経験を積んだ人材が必要であり、若手の育成を無視すれば、将来の幹部人材不足が顕在化する。企業がAIに依存し、人材育成のプロセスを省く戦略を取っている可能性もあるが、これは極めて短視眼的だ。 さらに危惧されるのは、AIの労働市場への影響の全貌は、まだ十分に理解されていないことだ。同チームは「AIの労働市場への本格的影響は、景気後退が発生した際に初めて顕在化する可能性がある」と指摘。ドイツ銀行の研究では、現在の米国経済がリセッションから逃れているのは、AI関連支出によるものであり、ハーバード大学のジェイソン・ファーマン経済学者によれば、2025年上半期のGDP成長の92%がAI関連の支出に起因しているという。 巨額の資金がAI開発に注ぎ込まれており、企業・消費者向けの生産性向上が期待されている。しかし、その成果はまだ現れていない。それでも「将来の期待」が市場に過剰な影響を与え、雇用市場を歪めている。AIは経済を変革する可能性を持つが、その結果が生産性の飛躍か、あるいはAIへの過剰投資が崩壊を引き起こす2008年型のリセッションかは、まだ不透明だ。
