AIが生態系のモニタリングと保護を支援する仕組みについて、3つの観点から解説。環境変化の早期発見、生物多様性の可視化、保全活動の最適化が実現されつつある。
気候変動や生息地の喪失、資源の過剰利用といった要因により、オレゴン州立大学の研究で3,500種以上の動物種が絶滅の危機にあるとされる中、MITの博士課程学生でCSAIL(人工知能・計算機科学研究所)の研究者であるジャスティン・ケイ氏は、AIを活用した生物多様性モニタリングの革新に取り組んでいる。ケイ氏は、スラ・ビーリー教授の研究室に所属し、コンピュータビジョンと機械学習技術を融合して、野生動物の動態をリアルタイムで把握する新しいアプローチを構築している。特に、パシフィックノースウェストのサケを水中ソナー動画で追跡するプロジェクトでは、サケが鳥やクマといった捕食者に栄養を供給する役割を評価し、生態系の健康を測る重要な指標としている。 大量の画像や動画データが得られる一方で、どのAIモデルが最も適しているかを判断するには従来、膨大な手動ラベル付けが必要だった。HuggingFaceには190万以上の事前学習モデルが存在する中、ケイ氏とマサチューセッツ大学アムヘスト校の共同研究チームは、「コンセンサス駆動型アクティブモデル選択(CODA)」という新手法を開発。この手法は、ユーザーが25枚程度のデータを手動でラベル付けするだけで、最適なモデルを効率的に特定できる。その鍵は「モデル間の予測の一致度」にあり、多数のモデルが一致して予測するデータポイントこそが、最も信頼できる情報源となる。これにより、データラベル付けのプロセスを「アクティブ」に最適化し、人間の労力の最小化と精度の最大化を実現した。 CODAは、ICCV 2025でハイライト論文に選ばれ、arXivに掲載された。この技術は、野生動物の種類識別だけでなく、珊瑚礁のドローン監視、エレファントの個体識別、衛星と地上カメラのマルチモーダルデータ統合など、多様な生態系モニタリングに応用可能。また、データ分布の変化(ドメイン適応)に強い新しいフレームワークも開発しており、魚類のカウント精度を向上させるとともに、自動運転や宇宙探査にも応用の可能性を示している。 ケイ氏らの研究の本質は、「モデルの訓練に注力するのではなく、実際の生態学的課題にどう役立つかを最優先に評価する」ことにある。AIの出力(例:動物のバウンディングボックス)は目的ではなく、最終的には「どの種がどこにいるか」「その変化は何か」といった科学的・管理的問いに答えるための手段である。そのため、機械学習の性能評価を生態統計モデルと統合するアプローチも進められており、AIと人間の専門知識を効果的に融合する仕組みを構築している。 こうした取り組みは、自然環境の変化がかつてないスピードで進行する今、科学的根拠に基づく迅速な意思決定を可能にする。AIの進化は、単なる技術革新ではなく、生態系保護という実社会課題への実質的な貢献を果たす可能性を秘めている。
