マイクロソフト、光を使った模擬計算機でAI推論と最適化の効率を100倍向上
マイクロソフトが、人工知能(AI)推論と組合せ最適化の分野で、エネルギー効率を最大100倍向上する可能性を秘めた「アナログ光コンピュータ」(AOC)の開発を発表した。同社英国・ケンブリッジ研究所とケンブリッジ大学の共同研究チームが開発したこの装置は、2025年9月3日に学術誌『ネイチャー』に論文として掲載された。 従来のデジタルコンピュータは、データの移動と0/1のスイッチングにエネルギーを消費し、「フォン・ノイマンボトルネック」と呼ばれる性能限界に直面している。これに対して、AOCは光の物理的性質を活用したアナログ計算により、エネルギー消費を大幅に削減。特にAI推論や複雑な最適化問題に特化した専用ハードウェアとして、大きな可能性を示している。 AOCの基本構造は、マイクロLEDアレイが入力データを光として出力し、空間光変調器(SLM)で光の強度を調整。その後、透鏡系で光を集束し、光電検出器アレイで加算処理を行う。この一連のプロセスにより、大規模なベクトル-行列乗算が物理的に瞬時に実行される。さらに、非線形処理や反復計算は模擬電子回路で補完される。 研究チームは、このAOCに「迅速固定点探索(rapid fixed-point search)」という仕組みを導入。反復的に計算を進めることで、ノイズに強く、正しい解に自然に収束する特性を持つ。 実証実験では、医療分野で核磁気共鳴(MRI)画像再構成に応用。デジタルツインモデルを用いたシミュレーションにより、スキャン時間の30分から5分への短縮が可能と示された。金融分野では、バクラーズ銀行と共同で取引決済の最適化に挑戦。46件の取引と30の制約条件を含む問題において、AOCがグローバル最適解を達成。量子コンピュータの実装よりも優れた性能を発揮した。 また、MNISTやFashion-MNISTの画像認識、非線形回帰など、AI推論タスクにも成功。ハードウェアの実行結果とシミュレーションの一致率は99%以上。 現行のプロトタイプは256個の重みを処理可能だが、将来の拡張では4096個まで可能。研究チームは、モジュール型設計により、25個のモジュールで1億個の重みを処理するシステムを想定。その場合、消費電力は約800W、計算速度は1秒間に400ペタオペレーション(Peta-OPS)に達し、効率は1Wあたり500テラオペレーション(TOPS/W)に達すると予測。これは、現行GPUの100倍以上のエネルギー効率を意味する。 構成部品の多くはスマートフォンカメラなどに使われる消費財レベルの技術であり、量産性とコスト面での利点も明確。 マイクロソフトは、このAOCがAI時代の持続可能な計算基盤としての役割を果たす可能性を示唆している。
