AIが終末期患者の代弁を検証
少子高齢化の進展に伴い、末期医療における意思決定者の不在が深刻化している。シンガポール科学技術デザイン大学(SUTD)のチョウ・ケニー助教らは、2026年CHIカンファレンスにて、事前ケア計画(ACP)を支援するAIエージェント「ACPAgent」のプロトタイプを発表した。既存のACPが紙ベースの一次限りの手続きに留まる現状を踏まえ、AIが個人の価値観に基づき終末期の意思決定を代理支援する可能性を検証する研究だ。 15名による4回のワークショップで、参加者は各々の人生観をエージェントに学習させた後、治療可能な疾患から終末期、家族対立まで難易度が上昇する5つのシナリオで意思決定をテストした。エージェントの提案と参加者の判断が一致した割合は86.7%に達したが、チョウ助教はこれを単純な成功指標と見なすよう警告する。この高一致率はAIが利用者の価値観を正確に反映した結果であると同時に、自動化バイアスや受動的な同意、モデルの迎合的な特性に起因する可能性も否定できない。また約12%のケースでエージェントの論理が参加者の初動判断を覆し、利用者がAIの言語構造を通じて自身の感情や価値観を再定義する現象も確認された。 チームは、AIが人間の価値観を学習するだけでなく、逆に参加者の思考プロセスそのものを形作る所有権の曖昧化が重大な倫理課題になると指摘する。このリスクを踏まえ、エージェントに課す自律度の尺度を分類し、完全な代理決定や単なる情報抽出の中間に位置する擁護役モデルを推奨する。これは人間の最終判断を尊重しつつ、本人の意志を強化する役割を想定している。 実用化には法的拘束力の整備、医療記録システムとの統合、厳格なデータ保護が不可欠である。本検証は技術の実装以前に、自律性や信頼、コントロールに対する人間の推論を浮き彫りにする調査手段として設計された。終末期医療決定において人間がAIに何を求め、どこまで委ねるべきかという根本的な問いを社会に投げかける、重要な技術検証と言える。
