AIが隠れた絶滅実態を解明し保全を転換
英国王立植物園ケイ(RBG Kew)は6月16日、収蔵する740万点の植物・菌類標本のデジタル化を完了し、関連データを同園データポータルで無料で公開した。これに合わせ、世界約40カ国から400人以上の研究者が参加した「第6回 世界の植物と菌類報告書」を学術誌「New Phytologist」上で発表した。 デジタル化とAI技術の進展は、生物多様性保全のパラダイムを転換している。歴史的にアクセスが困難だった標本群を遠隔で比較解析できるようになったことで、新たな種の同定や気候変動による開花時期のシフト解明が進んでいる。また、180年前の乾燥標本からの高品質ゲノム解析が可能になり、新薬開発や病害予測への応用が期待される。ケイの科学執行局長であるアレックス・アントネリ教授は、技術が不平等を是正し、保全活動の効率を飛躍的に高めると強調する。 一方、報告書はデータ格差の深刻さも指摘する。現在、世界の植物標本の16%未満しかデジタル化されておらず、グローバルサウスの「サイレント・ハーバリウム」に情報空白が生じている。また、正式に絶滅が宣言された植物は1,000種未満だが、評価対象外の種が多いことを踏まえると、実際の絶滅規模は過小評価されている可能性が高い。この「未知の喪失」を可視化するため、確率モデルの導入が提案されている。 報告書は、データ共有の公平性と国際連携を強く求めている。標本の本国収蔵や研究能力の移転が進み、収集者の多様な貢献が可視化される一方、AIのバイアス排除と資金支援の充実が不可欠だ。ケイのマーティン・チーク上級研究リーダーは、技術企業と環境団体、政府が連携し、保全データをグローバルに統合する必要性を訴えている。
