脳由来ハードウェアがAIの高速低消費電力異常検知を実現
ノースウェスタン大学のマーク・C・ハースマン教授らを主導する研究チームは、小脳の動作原理を模した低消費電力の異常検知用ニューロモフィックデバイスの開発に成功した。本研究は7月10日、学術誌Nature Communicationsに掲載された。従来のAIハードウェアは計算とメモリが物理的に分離されており、データ転送に多大なエネルギーを要する課題を抱えていた。これに対し、同チームはメモリと演算機能を一体化したメモントランジスタを採用し、小脳が通常情報を無視して予期せぬ事象のみに対応するエネルギー節約メカニズムをハードウェア上で再現した。 開発されたデバイスは二硫化モリブデン材料を用い、非対称トランジスタ構造を実装している。電圧の極性反転でシナプス様の興奮性と抑制性の動作モードを切り替え、通常時は抑制モードが信号を減衰させ、異常発生時に興奮性モードが優先され瞬時に検知する。この仕組みにより、従来のAIより約1万倍少ない計算操作で異常を検出する。実証実験では心電図データを用い、不整脈を0.2拍以内の極めて短い時間で検知し、精度は98%以上を記録した。ハースマン教授は本技術が大脳の思考中枢ではなく反射を司る小脳回路を模した点に革新性があると説明する。共同研究にはメッコーリクス工科大のヴィンセント・K・サンワン准教授、ワインバーグ芸術科学科大学のインドラ・M・ラマン教授、イリノイ大学シカゴ校のアミット・トリヴェーディ准教授らが参加している。 本研究はデータセンターに依存しない常時稼働型の低消費電力AIシステム実現を可能にし、ウェアラブル医療機器、自動運転、自律ロボット、サイバーセキュリティへの応用が期待される。ハースマン教授は今後、小脳の学習・適応機能も再現する研究を推進し、より複雑な神経回路の完全なハードウェア化を目指すとしている。
