Anthropic、15億ドル和解でAIデータ「圈地運動」の終焉へ
AIモデル開発企業のアンソニック(Anthropic)が、著作権侵害を巡る集団訴訟で15億ドル(約2,300億円)の和解金を支払うことで合意した。この事例は、生成AIの発展に伴うデータ収集の法的リスクを象徴する出来事であり、AI業界における「データの地図を塗り替える」転換点と評価されている。 訴訟の核心は、アンソニックが、図書の違法配布サイト「Library Genesis(LibGen)」から大量にダウンロードした著作物を、大規模言語モデル「Claude」の学習データとして使用した点にある。連邦裁判所のウィリアム・アルサップ判事が示した裁定が、この和解の鍵となった。彼は、AI学習が「変革的使用(transformative use)」に該当する可能性がある一方で、盗版から得たデータを用いることは「合理使用」の正当化を否定すると明言した。つまり、データ取得の手段が違法であれば、その後の利用がどれほど革新的でも、法的保護は得られないという立場である。 この判決により、アンソニックは裁判で敗訴し、万億ドル規模の賠償金を負うリスクを回避するため、和解を選択した。これは、AI企業がデータ収集の合法性を前提にしなければ、技術的進展が法的リスクに直面するという現実を示している。 この動きは、AIとクリエイティブ産業の間で広がる著作権対立の縮図である。ニューヨークタイムズはOpenAIに対し、ChatGPTが同紙の記事と類似した内容を生成し、読者を奪っているとして訴訟を提起。アート分野では、MidjourneyやStability AIに対し、AIが個人の芸術スタイルを模倣しているとして、作家たちが提訴。音楽業界では、Sony、Universal、Warnerら大手レーベルが、SunoやUdioに対し、音源の無断使用を理由に訴訟を起こしている。 これらの訴訟は、米国著作権法における「合理使用」の四要件を巡る論争に発展している。特に「市場への影響」が焦点となっており、AIがオリジナルコンテンツの代替となり得る場合、合理使用の適用は困難となる。現状では、著作権者側が具体的な損害証明が難しいため、法的勝利は難しいが、市場の構造自体が変化しつつある。 政府の対応は曖昧である。2025年7月に発表された「AI行動計画」は著作権問題を無視。一方で、トランプ大統領はAI開発には著作物への支払いを求めるべきでないと発言し、業界を鼓舞した。政策の不一致は、法的・経済的リスクを企業に押し付けている。 こうした状況下、企業の対応は分岐している。OpenAIは美联社やニュースグループとデータ利用契約を締結。一方、グーグルは「合理使用」の主張を堅持し、既存の検索ビジネスモデルを維持しようとしている。 一方で、CloudflareやReddit、Yahoo、Mediumらが共同で「RSL(Really Simple Licensing)」という新規オープン標準を発表。これは、サイトがAIのクローリングを許可するか、料金を設定できる仕組みで、robots.txtの進化版とされる。さらに、CloudflareはAIクローラーを検知・ブロックするツールも提供。この動きにより、コンテンツ提供者は「データの価値」を明確に主張できるようになり、AI企業がデータを「奪う」のではなく「買う」必要が生じる。 アンソニックの和解は、AIデータ収集の「無料時代」の終わりを示す象徴的な出来事である。今後、AI開発は、法的責任と倫理的配慮を前提とした、透明で明確なデータ取引の仕組みに移行していくだろう。
