心電図AI、心疾患検出・予測精度を向上
スクリプス研究所の研究チームは、心臓疾患の検出と予測を目的とした新たなAI基盤モデルECG-CLIPを開発し、学術誌ランスレット・デジタル・ヘルスに発表した。同モデルは心電図波形データに医師の診療記録を学習させることで、限られたラベルデータでも高精度な診断を可能にする。 研究を主導するジョルジオ・ケル准教授らは、54万人超の170万件以上の心電図記録と対応する臨床ノートを用いてモデルを訓練した。ECG-CLIPの特徴は、特定疾患の正例を十数件提示するだけで検出性能を向上させるファウンデーションモデルの性質を持つ点にある。従来の深層学習モデルが大量の専門ラベルを必要とするのに対し、心電図の生理学的基盤を先に学習した上で少数例に適合するこの手法は、臨床医の学習プロセスに匹敵する効率を実現している。 評価テストでは、急性心筋梗塞、心アミロイドーシス、肥厚性心筋症の3疾患における検出性能が比較された。ECG-CLIPは既存の標準モデルを全疾患で上回り、かつ平均91%少ないラベルデータ量で同等以上の精度を達成した。特にラベルデータが限られる環境や単一誘導心電図のみが利用可能な現場においても優位性が確認された。予測タスクにおいても、正常な心電図から将来の心房細動の発症、外来受診後の30日以内の生存率、および3年以内の慢性腎臓病や2型糖尿病の発症リスクを高精度に予測した。 臨床現場での信頼性確保のため、モデルの判断根拠を可視化するサリエンシーマップを実装した。これにより、どの波形領域が予測に寄与しているかを医師が把握できる仕組みとなっている。コ共同第一著者によれば、今後は院内救急環境への適応やウェアラブルデバイスとの統合による継続的遠隔モニタリングの可能性を探るため、データの多様化と前向き臨床試験による厳格な検証が次の課題となる。 ケル研究室はこれまで心血管AIスクリーニングアルゴリズムを複数開発してきた。ECG-CLIPの登場は、稀疾患の早期発見や医療リソースが逼迫する地域における診断支援の高度化に貢献すると期待されている。