「2025年注目書籍:音の物語から蝙蝠の謎まで」
『These are a few of my favourite sounds』――新刊書籍から聴く世界の音の物語 自然作家のマイケラ・ヴィーザーとアイザック・ユエンが共著した『サウンド・アトラス』(Reaktion, 2025年)は、日常に溶け込む「ありふれた音」の裏にある物語を紡ぐ一冊だ。1964年に観測された背景ノイズ——当初は鳩がアンテナに止まっていると誤認されたが、後にビッグバンの残響である宇宙背景放射であることが判明——から始まるこの音の旅は、氷山の破裂音やインドの古代ヒンズー寺院で石柱を叩いて生まれる神秘的な音楽までを網羅する。これらの音は単なる物理現象ではなく、地球や宇宙の記憶を伝えるメッセージである。 一方、神経生物学者ヨッシー・ヨヴェルの『天才的なコウモリ』(St. Martin’s Press, 2025年)は、哺乳類で最も多様な種を誇るコウモリの驚異を描く。約1,500種にのぼり、地球上の哺乳類の20%以上を占める。飛行する唯一の哺乳類であり、大陸を横断して暮らす。昆虫から果実、花粉、さらには血液まで食べる種もいる。しかし、哲学者トーマス・ナーゲルが問いかけた「コウモリとしての体験とは何か?」という問いには、今も答えが見つかっていない。ヨヴェルは、その謎めいた存在がいかに進化の奇跡であるかを、科学と詩の境界で語っている。 また、ジャーナリストのモイセス・ナーマとキコ・トロが執筆した『チャラタン』(Basic, 2025年)は、インターネットやSNS、AIの発展によって、過去に比べて影響力が飛躍的に増した「詐欺師」の生態を分析する。17世紀のイタリア語由来の「チアルラターニ」(=騒々しい売買屋)という言葉から始まるこの書籍は、現代の技術が彼らの活動を加速させ、精密にターゲットを絞ることを可能にしたと指摘。特に「テック企業にとっては、チャラタンは敵ではなく、利益をもたらす顧客」という皮肉な現実を浮き彫りにしている。 さらに、研究者メラニー・D・G・カプランの『ラブ・ドッグ』(Seal Press, 2025年)は、実験室で使われるラボ犬の視点から、科学の裏側にある人間と動物の関係性を描く。動物実験の倫理と、科学の進歩の狭間で生きる命の物語は、読者に深い共感を呼び起こす。
