会話型食用ロボット、食文化と倫理を探る
電気通信大学の中田康弘准教授を代表とする研究チームは、音声と動作で社会的な対話が可能であり、実際に摂取できるロボット(食用エージェント)の開発とその心理的受容に関する研究をまとめ、学術誌「PLOS ONE」で発表した。 本研究は代替食品や新規食品に対する心理的障壁、および食に関連する倫理的判断のメカニズム解明を目的としている。従来の動物を用いた倫理実験は動物福祉の制約や行動制御の困難さから限界があった。これに対しチームは、ゼラチンや糖分、果汁などで構成され、空気圧駆動で動作し音声に連動して揺れる食用エージェントを、精密に制御可能な実験ツールとして提案した。 1,094人を対象としたオンライン調査では、対象物の心の知覚尺度(エージェンシー:思考・道徳・自己制御、およびエクスペリエンス:感情・感覚)と、摂取時の拒絶感・罪悪感の予想度を評価した。その結果、理性的な対話反応を示すエージェントはエージェンシー知覚が高まり、乳児のような感情表現を示すエージェントはエクスペリエンス知覚が高まるという明確な差異が確認された。しかし、心の知覚の度合いと摂取拒絶感や罪悪感の間には統計的に有意な相関は認められなかった。 チームは、本研究結果を食の心理学および食品倫理研究における新たなパラダイムとして位置づけている。生体動物を必要とせず、外観や行動パターンを意図的に設計・操作できる食用エージェントは、昆虫食や培養肉など新規食品の社会的受容プロセス、およびヒトと食品の相互作用における倫理的バイアスを定量評価する強力な手段となり得る。今後は実際の摂食行動や自律動作を伴うより生態学的に妥当な環境下での追試を実施し、人間の食行動に関する心理的基盤をさらに解明していく方針である。
