シリコンバレーの新実験:15人の科学者が自由に研究する、未来を変える可能性を賭けた企業
シリコンバレーの新興企業エピステメ(Episteme)が、資本家の支援のもと、基本研究を自由に推進する実験的な研究機関として登場した。同社はサム・アルトマン(OpenAICEO)と孫正義(ソフトバンクCEO)の資金提供を受け、サンフランシスコに設備整った研究所を構え、15人の科学者がAIやバイオテクノロジーなど幅広い分野で好奇心に基づいた研究に専念できる環境を提供している。製品開発や資金調達の煩わしさから解放されたこのモデルは、かつてベル研究所やXerox PARCのような大手企業ラボを彷彿とさせる。CEOのルイ・アンドレは、「利益は副産物に過ぎず、影響力のある科学こそが最優先」と強調。研究の成功は、将来的な事業化につながるとの見方を示している。 しかし、同様の試みは過去に失敗例も多数ある。2020年のコロナ禍に、タイラー・カーウェンとストライプ共同創業者らが5000万ドルの「速やかに支給する助成金」プログラムを立ち上げたが、命を救う発見には至らなかった。2024年には5億ドルを投じて設立されたボストンのアリーナ・バイオワークスも、わずか1カ月で解散した。専門家は、基本研究は長期的な成果を伴うため、短期的な成果を求める民間資金には向かないという指摘を続ける。バイオインキュベーター「インディーバイオ」のCTO、ペイ・ウー氏は、「社会的に重要だが、株主価値を最大化しない研究は、政府の役割」と述べる。 実際、公的資金による基礎研究は、経済成長や生産性向上において私的資金を大きく上回る成果を上げることが実証されている。スタンフォードとロンドン経済学院の研究では、公私合わせたR&D投資の生産性リターンは55%に対し、私的資金のみでは21%にとどまった。2024年のテキサスA&M大学の研究では、非国防分野の公的R&Dが生産性に140%~210%の影響を与えると報告されている。 また、世界で最も重要な医薬品の8割以上が公的資金による研究から生まれており、平均32年かかる開発サイクルも実証されている。エピステメの夢は、こうした長期的な価値を生む研究を支援する「空白を埋める」存在になることだ。だが、企業ラボがかつて産み出したような革命的発明は、実は多くが「追随型」だったという歴史もある。アンドレ氏は、今後の展開次第で他の都市にも拡大する予定と語り、実験的なモデルの価値を信じている。
