
要約
会話中の感情認識(Emotion Recognition in Conversation, ERC)タスクにおいて、モダリティおよび文脈次元にまたがる高次数(high arity)の複雑な関係性は、重要な課題である。しかし、従来の手法は、マルチモーダルおよび文脈的関係性を緩やかに結合する形で符号化する傾向にあり、これにより関係性モデリングに悪影響を及ぼす可能性がある。近年、データ間の関係性を捉える点で優位性を示すグラフニューラルネットワーク(Graph Neural Networks, GNN)が、ERCに対する新たな解決策として注目されている。しかしながら、既存のGNNベースのERCモデルは、GNNに一般的に見られる限界、特に二項関係(pairwise formulation)を前提とすることや、高周波成分の信号を消去してしまうことといった問題に対処できていない。これらの問題は、多くのアプリケーションにおいては無視できる程度にとどまるが、ERCタスクにおいては極めて重要である。本論文では、多変量関係性を探索し、感情の差異と類似性の重要度の変動を、多周波数信号の価値を重視することで捉えるGNNベースのモデルを提案する。本手法により、発話間の内在的な関係性をより適切に捉え、より豊かで十分なマルチモーダルおよび文脈的モデリングを実現する。実験の結果、提案手法は2つの代表的なマルチモーダルERCデータセットにおいて、従来の最先端手法を上回ることを示した。