
要約
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックはほぼ2年半にわたり継続しており、SARS-CoV-2の懸念される変異株(VOCs)が絶えず出現している。これにより、広範な中和活性を示す抗体の開発が急務となっている。デルタ株(B.1.617.2系統)やオミクロン株(BA.1およびBA.2)は、既存の治療用抗体に対する免疫回避能を示すことが報告されており、特に懸念されている。変異が継続的に進化するSARS-CoV-2に対応するためには、新たな変異株に対する抗体の結合予測を迅速に行い、広範な中和活性を有する抗体を迅速に開発する必要がある。抗体工学および最適化における深層学習の応用を踏まえ、SARS-CoV-2変異株に対して広範な反応性を示す抗体が、深層学習を用いて迅速に設計・生成可能かどうかを検討した。本研究では、単一細胞B細胞受容体(BCR)配列から直接、SARS-CoV-2およびVOCsに対して広範な反応性を示す抗体を予測できる、アトラス畳み込みニューラルネットワーク(ACNN)を基盤とする深層学習フレームワーク「クロスリアクティブB細胞受容体ネットワーク(XBCR-net)」の開発を報告する。XBCR-netは2つの構成要素からなる。第1部は3本のブランチを持つACNNにより、抗体-抗原相互作用に関連する特徴量を抽出する。第2部は残差構造を有する多層パーセプトロン(MLP)を用いて、抗体が抗原(14種類のRBD配列)と結合する確率を予測する。SARS-CoV-2に対する結合予測性能について評価した結果、XBCR-netは他のフレームワークと比較して、有意に高い精度(accuracy)、適合率(precision)、再現率(recall)を達成した。