現代のがん診断は、疑わしい領域から組織標本を採取し、組織学的処理を経てデジタル化されたガラススライド(通称:Whole Slide Image, WSI)を作成するプロセスを含む。この処理プロセスでは、得られたWSIにさまざまな種類のアーティファクトが生じることが多く、これらの組織学的アーティファクトは、その後の診断パイプラインにおいて計算病理学(Computational Pathology, CPATH)システムに悪影響を及ぼす可能性がある。深層畳み込みニューラルネットワーク(Deep Convolutional Neural Networks, DCNNs)は、一部のWSIアーティファクト検出において優れた成果を上げているが、予測における不確実性を考慮していない点が課題である。本論文では、ぼやけた領域および折りたたまれた組織という、WSIに現れる代表的な2種類のアーティファクトを検出するための、不確実性を意識した深層カーネル学習(Uncertainty-aware Deep Kernel Learning, DKL)モデルを提案する。本提案モデルは、CNNによる特徴抽出器とスパースなガウス過程(Sparse Gaussian Processes, GPs)分類器を組み合わせた確率的モデルであり、既存の最先端DCNNアーティファクト検出手法の性能を向上させるとともに、予測の不確実性を定量的に評価できる。未知のデータに対する実験では、ぼやけ検出と折りたたみ組織検出において、それぞれF1スコア0.996および0.938を達成した。さらに、異なる染色法および組織タイプを有する外部独立コホートからの未知データを用いた広範な実験により、DKLモデルがDCNNを上回る性能を示した。興味深いことに、DKLモデルは正解予測に対してより高い信頼度を示し、誤り予測に対しては低い信頼度を示す傾向にあった。本提案するDKLモデルは、CPATHシステムの前処理パイプラインに統合可能であり、信頼性の高い予測を提供するだけでなく、品質管理ツールとしての応用も期待できる。