AIが医学教育を変革——清华AIRの「Agent Hospital」が実証するAIシミュレーションの可能性
中国工程院外籍院士で、清华大学講席教授、清华大学智能产业研究院(AIR)院長の張亞勤氏らの研究チームが、国際的な学術誌『Nature』に「Reinventing universities for today's world」(今日の世界にふさわしい大学の再設計)という論文を発表した。2025年9月25日付の同誌に掲載されたこの研究は、人工知能(AI)が高等教育、特に医学教育の革新に果たす役割に焦点を当てている。 気候危機や公衆衛生の緊急事態が続く中、教育機関は技術革新を通じて人材育成の効率を高める必要がある。張氏は、生成型AI(例:ChatGPT)が従来の評価システムに挑戦する一方で、学習プロセスを飛躍的に加速する革新的ツールとして活用すべきだと指摘。特に、AIRの劉洋教授らが開発した「Agent Hospital」と呼ばれるAI医療シミュレーションシステムの実用化が注目されている。 Agent Hospitalは、多モーダル大規模モデルを基盤に、仮想の医師と患者がリアルタイムでやり取りする環境を再現。患者の症状発現から初診、検査、診断、治療提案、フォローアップまで、医療の全プロセスを包括的に模擬。AI医師は数百万件の症例データを学習し、人間の医師が数年の臨床経験で得る知識に相当する能力を備えている。米国医師国家試験のMedQAベンチマークで、仮想患者および実際の症状を持つ患者に対する診断精度が96%に達した。 現在、このシステムは清华大学で人材育成の試験的導入が行われており、AI患者はテキスト、音声、さらには模擬身体動作で症状を伝える。今後は触覚センサーを内蔵したウェアラブルデバイスによる皮膚感覚の再現も開発中だ。 張氏は「AIは臨床現場での実際の患者との接遇を代替できないが、教育の初期段階で活用することで、安全かつ効率的に知識とスキルを習得できる」と強調。また、AIは行政業務、文献レビュー、プログラミングなど多様な分野で応用可能であり、高等教育全体の変革を促す可能性を秘めていると述べている。ただし、倫理的配慮と人間の判断の不可欠性を維持する必要があると警鐘を鳴らしている。 Agent Hospitalの開発は、「AI+教育」の融合における中国の国際的影響力を示しており、今後、グローバルな高品質人材育成の効率化を支える鍵となる可能性を秘めている。