AI研究に活用される合成データの利点とリスク——検証体制の必要性が浮き彫りに
人工知能(AI)を活用した医療研究の進展に伴い、実世界のデータに代わる「合成データ」の利用が急速に広がっている。合成データとは、実際の患者や人のデータではなく、数学モデルやアルゴリズムによって生成された情報で、統計的性質を模倣するように設計されている。この技術は、特に医療資源が限られる低・中所得国での研究や、X線画像のAI解析などにおいて、実データの不足を補う可能性を秘めている。また、個人を特定するリスクが低いため、一部の大学では合成データを使用する研究に対して、従来の倫理審査を免除する動きも出ている。 しかし、こうした利点の一方で、重大なリスクが指摘されている。第一に、合成データの源が実際の人のデータである場合、その個人が再識別される可能性がある。特にAIモデルが複数世代にわたって合成データを学習し続けると、元のデータとのつながりが希薄になるものの、特定のパターンから個人を特定できるリスクは残る。第二に、「モデル崩壊」の危険がある。AIが生成した合成データをさらに合成データとして学習し続けると、結果が非現実的または意味のないものに進化する可能性がある。このため、AIの結果が本当に信頼できるかどうかを、独立した研究者による検証が不可欠となる。 現状では、合成データの生成方法や仮定を明示するガイドラインが整っておらず、結果の検証も不十分なケースが多い。世界保健機関(WHO)のデータサイエンティスト、ジジス・コズラキディス氏は、研究者が生成プロセスを詳細に報告し、他者が再現・検証できるようにするべきだと提言。また、ミズーリ大学のランディ・フォラーカー氏らは、合成データに関する報告基準の策定を、学術誌と共同で進める必要があると主張している。 ドイツのヘルムホルツ研究所のマルセル・ビンツ氏も、AIモデル「Centaur」が人間の意思決定を予測する能力について、外部検証が必須だと強調。彼は「これはまだ最も悪いバージョンであり、今後改善される」と述べ、研究の透明性と検証体制の強化が不可欠だと訴えている。 合成データは医療研究の革新を促す可能性を秘めているが、その信頼性を確保するためには、生成プロセスの開示、独立検証の徹底、国際的なガイドラインの整備が急務である。AIが「正しい」と言っているからといって、そのまま受け入れるのではなく、科学的根拠に基づいた慎重な評価が求められる。
