AIとテンソルネットワークで解明、100年ぶりの統計力学難問に成功
ニューメキシコ大学とロスアラモス国立研究所の研究者らが、100年以上にわたって解決が難しかった統計物理学の基本的課題を、AIを活用したテンソルネットワークベースの計算フレームワークによって突破した。この新技術「THOR(Tensors for High-dimensional Object Representation)」は、物質の熱力学的・機械的性質を決定する極めて高次元な「配置積分(configurational integral)」を、従来の方法では不可能だった高速かつ正確に計算可能にした。 配置積分は、原子間相互作用を記述する重要な量だが、次元が数千に及ぶため、従来の数値積分法では計算時間は宇宙の年齢をはるかに超える。そのため、研究者は分子動力学やモンテカルロ法といった近似手法に頼っており、計算には数週間のスーパーコンピュータ時間が必要だった。しかし、これらの方法は間接的であり、精度に限界があった。 THORは、テンソルトレイン交差補間という数学的手法を用いて、高次元の積分関数を小さな連結されたテンソルの連鎖に圧縮。さらに、結晶の対称性を自動的に抽出する独自の改良手法を導入し、計算時間を数秒にまで短縮。銅やアルゴン、スズの固体間相転移といった複雑な状況においても、ロスアラモスの最良シミュレーションと同等の精度を実現したが、計算速度は400倍以上向上した。 このフレームワークは、機械学習に基づく原子間ポテンシャルともシームレスに連携可能で、材料科学、物理学、化学の分野での応用が期待される。研究を主導したロスアラモスのAI科学者ボイアン・アレクサンドロフ氏は、「THORは百年にわたる近似手法に代わる第一原理計算の実現だ」と述べ、材料の発見を加速する可能性を強調した。 研究の詳細は、『Physical Review Materials』2025年1月号に掲載され、THORプロジェクトはGitHubで公開されている。
