AIが脳幹白質路を自動解析、神経疾患の新たなバイオマーカーに
MIT、ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院の研究チームが、脳幹の白質路を高精度で可視化するAIソフトウェア「BrainStem Bundle Tool(BSBT)」を開発した。この技術は、従来の拡散MRI(dMRI)では解像度が低く、脳幹の細小な白質束を正確に捉えられなかった問題を解決。BSBTは、AIを活用して脳幹に通じる8つの主要な白質束を自動的に分離・可視化できる。研究は2月6日に『米国科学アカデミー紀要』(PNAS)に公開され、公開されたツールは誰でも利用可能。 研究を主導したMIT医学工学・医学物理学プログラムの大学院生マーク・オルチャニ氏は、「脳幹は画像化が極めて困難な領域で、その構造はほとんど解明されていない」と指摘。脳幹は意識、呼吸、心拍、体温調節といった生命維持機能を司る中枢であり、その白質路の損傷がパーキンソン病、多発性硬化症(MS)、脳震とう(TBI)、アルツハイマー病などの病態と関連しているとされる。BSBTは、脳幹に流入する神経線維の「確率的マップ」を生成し、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)が複数の画像情報を統合して8つの束を識別する。 訓練には30例の健康な被験者データ(Human Connectome Project)を用い、手動で注釈された画像でAIを学習。検証では、死後脳の顕微鏡的解剖や超高解像度画像との比較で精度を確認。40人の被験者で2か月間隔のスキャンを繰り返し解析した結果、BSBTは同一被験者における束の再現性が非常に高いことを示した。 臨床応用では、アルツハイマー病では1つの束に変化、パーキンソン病では3つの束で構造的損傷(FA値低下)、MSでは4つの束で顕著な変化が確認された。特にTBI患者のケースでは、7か月間の昏睡中、BSBTが損傷部の体積が3倍減少し、束が元の位置に戻る様子を追跡。この結果は、保存された脳幹束が昏睡回復の予後指標になり得るとの示唆をもたらした。 研究チームは、BSBTが従来の診断法に加え、脳幹白質の微細な構造変化を長期的に追跡できる「新規バイオマーカー」の可能性を示した。同研究は米国立衛生研究所(NIH)など複数の機関から資金提供を受け、脳神経疾患の理解と診断の進展に貢献する可能性が注目されている。
