物理に基づくデータで学習したAIモデルが、科学の発見を加速している
ポリマティックAI共同研究チームは、物理学に基づく新しい基礎型AIモデル「Walrus」と「AION-1」を発表し、科学分野におけるAIの次世代進化を示した。これらのモデルは、従来の言語や画像データで学習するChatGPTとは異なり、実際の科学データセット——天文観測や流体動力学の実験・シミュレーションデータ——を用いて学習する。特に、Walrusは15テラバイトに及ぶ「Well」と呼ばれる流体系データベースを活用し、中性子星の合体から大気の層間移動、Wi-Fi信号の伝播まで、多様な物理現象を統合的に学習。一方、AION-1はスローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)やガイアなど、2億以上の天体観測データを基に、星や銀河の物理的性質を学習。これらは「基礎型モデル」として、特定の問題に特化するのではなく、物理法則の普遍性に着目し、異なる分野間で知識を転移可能にしている。 このアプローチの核心は、「学びの一般化」にある。研究チームのマイケル・マクベイ氏は、「新しい物理現象に直面しても、他の分野で既に知られている知識をAIが活用できる」と説明。たとえば、生物学的な細菌の動きを理解する際に、流体力学の知見を応用できる。これは人間の感覚が視覚・聴覚・嗅覚などを統合して世界を理解するのと似ており、一つの情報源が欠けても他の情報から推測できる。研究者らはこれを「複数感覚による統合学習」と表現し、AIが未知の実験データに対しても、過去の膨大な経験から合理的な予測を可能にすると期待している。 WalrusとAION-1は、データ量が少ない場合や、計算リソースが限られた環境でも高い性能を発揮するという利点を持つ。これは、科学者たちが毎回新しいモデルを構築する必要がなくなるため、研究のスピードと効率を飛躍的に向上させる。AION-1の開発責任者であるリアム・パーカー氏は、「研究者は既に学習済みのAIを基盤に、自らのデータに対して最先端の精度を実現できる」と強調。また、両モデルのコードとデータはオープンソースで公開されており、研究コミュニティによる共同開発が期待されている。 ポリマティックAIの主研究者であるシャーリー・ホ氏は、「科学者にAIの知能を届けることが目標」と語り、AIを研究の日常に組み込む仕組みづくりに注力。カーバー大学のマイルズ・クランマー氏も、「多分野の物理学を統合するAIが実際に機能していることに驚き」と語り、この成果は「物理シミュレーションの汎用AIへの一歩」と位置づけている。今後、これらのモデルは、宇宙論、気象予測、材料科学、生命現象の理解など、幅広い分野での科学的発見を加速させる可能性を秘めている。
