AI法律支援ツール「Harvey」、1年で80億ドル valuationへ 法務部門と法律事務所を結ぶマルチプレイヤー型プラットフォームの実力とは
シリコンバレーで注目を集めるLegal AIスタートアップ「Harvey」のCEO、ウィンストン・ワインバーグ氏が、初年度の法務アソシエイトとしての経験から、AIが法律業界を変える可能性に気づいた。2023年、同社共同創業者で元Meta社員のガブリエル・ペレイラ氏がGPT-3を紹介。当初はD&Dゲーム用に使っていたが、O’Melveny & Myersで取り組んだ「賃貸契約」の案件で、AIに法的リサーチを依頼。2人で開発した「チェーン・オブ・サウンド・プロンプト」で、Redditの法的質問100件を処理。3人の専門家に提示した結果、86件で「修正不要」と評価された。これが、AIが法律業務を変える可能性を確信するきっかけとなった。 その後、サム・アルトマン氏とOpenAIのジェイソン・クオン氏に冷メールを送り、7月4日午前10時に面談。同日中にOpenAI Startup Fundから出資が決定。これを受け、セイコア・キャピタル、クレインァー・パーキンス、アンドリーセン・ホロウィッツなど、トップVCが次々と参画。2025年2月の30億ドルから、6月に50億ドル、10月下旬には80億ドルの評価額に到達。同社は63カ国に235のクライアントを抱え、8月時点で年間定期収益(ARR)1億ドルを突破。主な顧客は米国上位10大法律事務所の大多数。 Harveyの特徴は「マルチプレイヤー型プラットフォーム」。法務部門と外部弁護士が安全に連携できる仕組みを構築。特に、ドイツやオーストラリアなどデータ保存法が厳しい国々で、法的「エスカレート・ウォール(倫理的壁)」を守る権限管理を実現。AIが誤って情報を共有するリスクを回避する仕組みは、同社の主要な競争優位性。12月には大規模なバージョンがリリース予定。 主な活用シーンは、文書作成、法的リサーチ(リクス・ネクシスと提携)、大規模文書の分析。M&Aや資金調達の取引事務が依然人気だが、訴訟分野の成長が著しい。批判の声として「ChatGPTのラッピング」との指摘があるが、ワインバーグ氏は、ワークフローのデータ蓄積と、法務・企業間の連携を可能にする「真のマルチプレイヤー」構造が、他社に真似できない強みと強調。 ビジネスモデルは、現在は「ライセンス単位」の定額制。今後、成果に応じた課金も導入予定。AIが「全工程を自動化」するのではなく、初回のドキュメント作成や分析を担い、人間の弁護士が最終判断を下す「協働型」が基本。AIは「ジュニア弁護士の1対1チューター」として、教育的価値も高まると見ている。 現在、世界の弁護士800万人のうち、Harveyの利用者は極めて少数。しかし、1件のM&Aで数千万ドルの法的費用がかかる中、AIが正確に100ページの合併契約を生成できれば、その価値は計り知れない。今後5年で、AIが行える法律業務の範囲は大幅に拡大すると予想。同社は、大規模な資金調達は計画していないが、将来的な上場に意欲的。
