AIが理論物理の難問を解き明かす gluon振幅の証明で初のAI協働成果
理論物理学者のアンドリュー・ストロミンガー教授らの研究チームが、AIチャットボットを共同研究者として活用し、長年解決されなかった「グルーオン振幅」に関する証明に成功した。この成果は、AIが科学の発見プロセスに本格的に参加した初めての事例とされ、物理学界に大きな影響を与える可能性がある。 ストロミンガー教授は当初、ChatGPTの回答が表面的には説得力があっても、本質的な誤りを含むと懐疑的だった。しかし、かつての大学院生で、現在OpenAIの研究科学者であるアレクサ・ルプサスカ氏の誘いを受け、同社の高度な内部版チャットボット「スーパーチャット」に難問を提示した。その問題は、強い相互作用を媒介するグルーオンの振幅に関する未解決の仮説で、3人以上の物理学者が長年にわたり取り組んできた。 当初はAIがうまくいかないだろうと予想していたが、スーパーチャットは12時間にわたり計算を継続し、最終的に正しい解決策を導き出した。その後、ストロミンガー、ルプサスカ、ケンブリッジ大学のデイビッド・スキンナー、インスティテュート・フォー・アドバンスド・スタディのアルフレド・グエヴァラの4人の研究者と協力して、AIの答えを手作業で検証。結果として、論文「Single-minus gluon tree amplitudes are nonzero」がarXivに公開された。 ルプサスカ氏は、この体験を「AIに洗脳された(AI-pilled)」と表現。かつては単なる校正ツールとしか思っていなかったAIが、数分で彼が数週間かけて解いた微分方程式を解決したことで、AIの可能性を確信した。彼はその後、OpenAIに移籍。同社は科学分野でのAI活用を強化する「OpenAI for Science」プログラムを立ち上げ、数学・理論物理学の専門家を招聘。ルプサスカ氏はその初の採用者となった。 ストロミンガー教授は、AIが人間の役割を代替するのではなく、研究の「強化ツール」としての役割を果たすと語る。「AIは創造的なパートナーのように感じられた。私は代替されない。むしろ、私たちの可能性を広げる。ただし、科学者自身が再設計(retool)しなければならない」と述べた。 この出来事は、AIが単なる情報処理機ではなく、複雑な理論問題の解決に貢献する「共同研究者」としての地位を確立した重要な一歩と評価されている。
