AI依存が職場のスキルを蝕む――哲学教授が警告
カリフォルニア大学アーバイン校の哲学科准教授、アナスタシア・ベルグ氏は、AIツールの普及が労働者に「技能の萎縮(deskilling)」をもたらしていると警告している。企業はAIを生産性向上の鍵と見なし、急速に導入を進めているが、ベルグ氏はその一方で、従業員が本質的な能力を失いつつあると指摘する。 ベルグ氏は「哲学者の会話」(The Philosopher)ポッドキャストで、自身の研究や業界関係者からの声をもとに、AIに依存する労働者が基礎的スキルを急速に失っていると述べた。彼女は、スキルの習得だけでなく、維持と継続的な鍛錬が重要であると強調。具体的には、初級エンジニアや新入社員がAIに頼りきりになり、コードの記述やデバッグの基本を自ら学ばない状況が広がっていると指摘。高齢のプロフェッショナルがAIを補助的に使うのは問題ないが、初学者がAIに依存し続けると、AIが何をどう処理しているか理解できず、誤りの検出や修正も不可能になるという。 この問題は職場にとどまらない。ベルグ氏は、大人のAI利用の73%が仕事以外の目的(感情的支援、意思決定、社会的関係の管理など)で行われており、MIT、ハーバード、ドーソン大学とOpenAIの共同研究でも同様の傾向が確認されたと説明。AIに日常の判断を委ねる習慣は、独立した思考力や判断力の低下を招くと警鐘を鳴らす。 ベルグ氏は、AIは単に作業を自動化するだけでなく、人間がスキルを身につけるための「摩擦」を消し去っていると指摘。その結果、表面的な生産性は高まるが、AIなしでは動けない「デジタル依存型」の労働者層が育つ恐れがある。企業が効率を最優先にAIを導入し続けるなら、結局は「生産性の偽装」に終わる可能性がある。AIは労働力を強化するのではなく、じわじわとその基盤を蝕んでいると警告している。
