AIが解明した哺乳類の進化「時空の遺物」X染色体の保存領域
テキサスA&M大学の研究チームが、人工知能(AI)を活用して、哺乳類の種が数千万年もの間、遺伝的に区別されたまま維持される理由を解明した。この研究は、Nature誌に2025年3月に掲載され、X染色体に存在する「再結合の砂漠(XLRD)」と呼ばれる遺伝子領域の重要性を明らかにした。この領域は、哺乳類の多くで1億年以上にわたり保存されており、種の遺伝的アイデンティティを守る「ゲノムのタイムカプセル」として機能している。 研究の主導者であるニコール・フォリー博士(テキサスA&M大学獣医学・生物医学科学部)は、「大型猫、オオカミ、イヌ、コヨーテ、クジラやイルカなど、種間の交雑が頻繁に起こるにもかかわらず、なぜそれらが別々の種として維持されているのかが長年不明だった」と説明。交雑によって遺伝子が混ざり合うことは自然の進化の一部だが、その中で種の境界が保たれる仕組みは、再結合(遺伝子の交差)のマップが不十分だったため、長年不明だった。 今回、AIを用いた大規模ゲノム解析により、22種の哺乳類のX染色体を比較。その結果、X染色体の約30%にわたる広範な領域が、再結合が極めて少ない「再結合の砂漠」として共通していることが判明。このXLRD領域は、進化の歴史を記録する「タイムカプセル」として機能し、種の分岐を示す重要な証拠となった。 さらに、この領域は男性・女性の生殖機能や性染色体の不活性化に関連する遺伝子が豊富に集積しており、ハイブリッド個体の不妊や、ヒトの多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの生殖・代謝疾患との関連が示唆された。研究チームは、種分化の過程で生殖隔離が生じるメカニズムが、多くの種で共通の遺伝子領域に依存している可能性を示した。 この発見は、進化生物学の理解を深めるだけでなく、ヒトの不妊治療や生殖健康の研究にも応用が期待される。AIを活用したゲノム解析の力が、従来の手法では見えなかった進化的な「秘密の記録」を解き明かした。
