
本稿では、物体検出器の汎化能力の向上に注目する。具体的には、一つのソースドメインでの学習のみを前提として、多数の未観測のターゲットドメインにおいても良好な性能を発揮する物体検出器を学習することを目的とする、現実的かつ挑戦的な設定である「シングルドメイン一般化物体検出(Single-Domain Generalized Object Detection, Single-DGOD)」を考察する。Single-DGODに向けた重要な課題として、ドメインに依存しない表現(Domain-Invariant Representations, DIR)を抽出すること、すなわち物体固有の特徴を含む表現を獲得することが挙げられる。これは、未観測ドメインに対するロバスト性を向上させる上で有効である。そこで本研究では、ドメイン関連のラベル(例:ドメインラベル)といった教師信号を用いずに、ドメイン固有の表現からDIRを分離する手法、すなわち「サイクリック分離自己蒸留(cyclic-disentangled self-distillation)」を提案する。具体的には、入力の視覚特徴からサイクリックにDIRを抽出するための「サイクリック分離モジュール」を初めて提案する。このサイクリックな操作により、ドメイン関連のラベルに依存せずに、表現の分離能力を強化することが可能となる。その後、得られたDIRを教師として用い、自己蒸留モジュールを設計することで、さらに汎化能力を向上させる。実験では、都市シーンにおける物体検出タスクを対象とし、5種類の天候条件下での評価を行った。実験結果から、ベースライン手法と比較して本手法が顕著な性能向上を達成することが確認された。特に夜間晴天条件では、ベースライン手法に対して3%の性能向上を達成しており、本手法が汎化能力の強化に有効であることを示している。実験データおよびコードは、https://github.com/AmingWu/Single-DGOD にて公開されている。