
グラフ畳み込みネットワーク(Graph Convolutional Networks, GCN)は、グラフ表現学習における有望な手法として注目を集め、急速に発展している。しかし、多くのGCNはモデルの深さが増すにつれて性能が低下するという課題を抱えている。これは畳み込みニューラルネットワーク(CNN)と同様の現象であり、特別なアーキテクチャ設計がなければ、ネットワークの性能は急速に劣化する。一部の研究者は、必要な近傍サイズとニューラルネットワークの深さが、グラフ表現の観点から完全に独立した側面であると主張している。このため、いくつかの手法では、ノードのk-hop近傍を統合することで近傍領域を拡張しつつ、浅いニューラルネットワークを用いるアプローチが採られている。しかし、これらの手法は依然として過剰なスムージング(oversmoothing)問題や、計算コスト・記憶領域コストの高さという課題を抱えている。本論文では、マルコフ拡散カーネル(Markov diffusion kernel)を用いて、スペクトルモデルと密接に関連する新しいGCNの変種である「シンプルスペクトルグラフ畳み込み(Simple Spectral Graph Convolution, S²GC)」を導出する。S²GCは空間的アプローチとスペクトル的アプローチの長所を統合した手法である。我々のスペクトル解析により、S²GCで用いられるシンプルなスペクトルグラフ畳み込みが低域通過フィルタ(low-pass filter)として機能し、ネットワークを少数の大きな構造に分割する性質を持つことが明らかになった。実験評価の結果、S²GCは線形学習器を用いてテキスト分類およびノード分類タスクにおいて、他の手法と競合可能な性能を示した。さらに、ノードクラスタリングおよびコミュニティ予測タスクにおいても、他の最先端手法と同等の性能を達成していることが確認された。