要約
深層学習技術の著しい進展に伴い、深層学習に基づく気候モデルの構築に向けた多数の試みがなされている。これまでの多くの研究では、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)やグラフニューラルネットワーク(GNN)が用いられてきたが、本研究では、ニューラル常微分方程式(NODE)と輸送拡散方程式(advection–diffusion equation)の2つの概念を基盤として、新たな気候モデルを設計した。輸送拡散方程式は、気候システムにおけるブラウン運動や大規模な物質移動を含む多くの物理過程を記述できるため、気候モデリングにおいて広く用いられている。一方、NODEはデータから潜在的な常微分方程式(ODE)の支配方程式を学習することを目的としている。本研究で提示する手法では、これら2つの要素を統合した単一のフレームワークを構築し、「ニューラル輸送拡散方程式(Neural Advection–Diffusion Equation: NADE)」という新概念を提案する。NADEは、輸送拡散方程式に加えて、内在的な不確実性をモデル化する追加のニューラルネットワークを備えており、与えられた気候データセットを最も適切に記述する潜在的な支配方程式を学習可能である。実世界のデータセット3種類と合成データセット2種類を用いた実験において、14のベースライン手法と比較した結果、本手法は一貫して顕著な優位性を示した。