
近年、現実世界における物体の分布が基本的なべき乗則(power-law)分布を示すことに起因して、長尾認識(Long-Tailed Recognition, LTR)の問題が注目を集めている。これまでの多数のLTR研究では、特定クラスの学習データ量と分類器のノルムが相関するという偏りを持つソフトマックス分類器が用いられている。本研究では、プロトタイプ分類器(Prototype Classifiers)を用いることで、LTRにおけるソフトマックス分類器の偏りを解消できることを示す。プロトタイプ分類器は、プロトタイプを経験的重心(empirical centroids)として用いる「最近傍クラス平均法(Nearest-Class-Mean, NCM)」という特殊ケースを単純に適用するだけで、有望な性能を発揮する。さらに一歩進んで、表現空間におけるプロトタイプとの距離を分類のロジットスコアとして用いることで、プロトタイプを同時学習する手法を提案する。また、ユークリッド距離に基づくプロトタイプ分類器の性質について理論的に分析し、外れ値に対して頑健な勾配ベースの最適化が安定して行える理由を明らかにする。各チャネルごとに独立した距離スケールを可能とするために、チャネル依存の温度パラメータを学習する機構を導入し、プロトタイプ分類器の性能を向上させた。分析結果から、プロトタイプ分類器によって学習されたプロトタイプは、経験的重心よりもより明確に分離されていることが示された。4つのLTRベンチマークにおける実験結果から、本手法は最先端の手法と比較して優れるか、同等の性能を発揮することが確認された。本研究のコードは、https://github.com/saurabhsharma1993/prototype-classifier-ltr にて公開されている。