
軌道予測を実現するため、従来の大多数の手法はパラメータベースアプローチを採用しており、過去と未来のインスタンス対をすべてモデルパラメータに符号化する。しかしながら、このアプローチではモデルパラメータがすべての観測済みインスタンスに由来するため、現在の状況を予測する際に、関係のない大量の観測インスタンスが混入する可能性があり、性能に悪影響を及ぼす。現在の状況と観測済みインスタンスとの明確な関連性を確保するため、神経心理学における後悔記憶(retrospective memory)のメカニズムを模倣し、訓練データ内から類似するシナリオを検索することでエージェントの移動意図を予測するインスタンスベースのアプローチであるMemoNetを提案する。MemoNetでは、訓練データ内の代表的なインスタンスを明示的に格納するためのメモリバンクのペアを設計し、神経系における前頭前野(prefrontal cortex)に相当する役割を果たす。また、現在の状況に類似するインスタンスを適応的に探索する学習可能なメモリアドレスャーを導入し、基底核(basal ganglia)に類似した機能を実現する。予測段階では、メモリアドレスャーを用いてメモリバンク内の関連インスタンスをインデックスすることで、過去の記憶を再現する。さらに、2段階の軌道予測システムを提案する。第1段階ではMemoNetを活用して目的地を予測し、第2段階では予測された目的地に基づいて全軌道を生成する。実験結果から、提案手法であるMemoNetは、SDD/ETH-UCY/NBAデータセットにおいて、従来の最良手法に対してFDE(Final Displacement Error)をそれぞれ20.3% / 10.2% / 28.3%改善した。また、実験により、MemoNetが予測中に特定のインスタンスを遡って追跡する能力を持つことが示され、予測の解釈可能性が向上することが確認された。