
要約
人工知能における基本的な問題の一つは、知識グラフ(Knowledge Graph, KG)で捉えられた事実に対して複雑な多段階論理推論を実行することである。この問題は、KGが巨大かつ不完全であるため難易度が高い。最近の手法では、KGのエンティティを低次元空間に埋め込み、これらの埋め込みを使用して回答エンティティを見つける方法が採られている。しかし、任意の一階論理(First-Order Logic, FOL)クエリを処理する方法については依然として大きな課題が残っており、現行の手法はFOL演算子の部分集合にしか対応していない。特に否定演算子($\neg$)はサポートされていない。現行手法のさらなる制限点としては、不確実性を自然にモデル化できないことが挙げられる。本稿では、BetaEという任意のFOLクエリに対する回答を行う確率的埋め込みフレームワークを提案する。BetaEは、否定($\neg$)、論理積($\wedge$)、論理和($\vee$)といった一連の一階論理操作を完全に処理できる最初の手法である。BetaEの重要な洞察は、境界付き支持域を持つ確率分布、具体的にはベータ分布を使用し、クエリやエンティティを分布として埋め込むことにある。これにより、不確実性も忠実にモデル化することが可能となる。論理操作は、確率的埋め込み上でニューラル演算子によって埋め込み空間内で行われる。3つの大規模で不完全なKGにおいて任意のFOLクエリへの回答性能を示すことでBetaEの性能を検証した。より一般的な手法でありながらも、否定演算子に対応しない結合クエリのみを取り扱う現在の最先端KG推論手法と比較して相対的な性能向上が最大25.4%達成されたことを確認している。