
転移学習は、ソース領域からの知識を活用してターゲット領域に対して堅牢な分類器を学習することを目的としている。しかし、通常、ソース領域とターゲット領域は異なる分布に従うため、従来の手法は主にクロスドメインの周辺分布や条件分布の適応に注力している。実用的な状況においては、周辺分布と条件分布がドメイン間の乖離に与える寄与度が異なることが一般的である。これに対して、既存の手法はこれらの分布の相対的な重要度を定量的に評価する能力に欠けており、その結果、満足のいく転移性能が得られない場合がある。本論文では、各分布の相対的な重要度を定量的に評価可能な新しい概念である「動的分布適応(Dynamic Distribution Adaptation: DDA)」を提案する。DDAは構造的リスク最小化(Structural Risk Minimization)の枠組みに容易に組み込むことができ、転移学習問題の解決に貢献する。DDAを基盤として、以下の2つの新しい学習アルゴリズムを提案する:(1) 伝統的な転移学習を対象とした多様体動的分布適応(Manifold Dynamic Distribution Adaptation: MDDA)、および (2) ディープ転移学習を対象とした動的分布適応ネットワーク(Dynamic Distribution Adaptation Network: DDAN)。広範な実験により、MDDAおよびDDANが転移学習性能を顕著に向上させ、数字認識、センチメント分析、画像分類の各タスクにおいて、最新のディープ学習および敵対的アプローチと比較しても強力なベースラインを確立することを示した。特に重要なのは、周辺分布と条件分布がドメインの乖離に異なる寄与をしていること、そして本研究のDDAがその相対的な重要度を適切に定量評価でき、結果としてより優れた性能を達成できることである。本研究の観察結果は、今後の転移学習分野における研究に有益であると考えられる。