AIが露呈させる教育の根本的な問題——エコノミスト・タイラー・カーウェンが警鐘
経済学者でジョージ・メソン大学の教授であるタイラー・カーウェン氏は、人工知能(AI)の進展が教育制度の根本的な問題を露呈していると指摘している。AIの普及により、学生が瞬時に膨大な知識にアクセスできる時代に入り、従来の教育のあり方——特に試験や宿題、成績評価——がすでに陳腐化していると述べた。カーウェン氏は、ポッドキャスターのアズーム・アザールとの対談で、「宿題はもう不要だ」と明言。また、コンピュータが自動採点する試験も、AIの登場によって意味をなさなくなっていると強調した。 彼によれば、多くの教育現場は「誰が不正行為をしているか」にばかり目を向け、代わりに「何を学ぶべきか」「どう評価すべきか」という本質的な問いを問う姿勢が欠けている。「手を焼くのは不正行為ではなく、制度の凝り固まりだ」とカーウェン氏は警鐘を鳴らす。現在の教育システムは「良い成績を取ること」を最優先に設計されており、それがAI時代には最も無意味なスキルになるというのだ。 彼は、教育の在り方を根本から変える必要があると訴え、記憶力や標準化されたテストに頼る学習から脱却し、メンター型の指導へと転換すべきだと提言。学生の思考を深める「批判的思考力」や「柔軟な適応力」を育むことが、今後の学びの中心となるべきだと説明した。ただし、その実現は困難だとし、「人材や運用プロセスの刷新がほとんど進んでいない」と現状を冷ややかに評価している。 一方、OpenAIとグーグルは教育分野でのAIの浸透を急いでおり、両社がそれぞれ「Study Mode」や「Gemini for Education」を発表。AIが答えを直接出さず、学生の思考を促す学習支援機能を提供することで、不正の懸念を払拭しつつ、長期的な学びを促す戦略を展開している。教育現場では、教師たちもAIを活用して授業計画を効率化する動きが広がりつつあるが、一方で評価方法の見直しに苦戦する声も少なくない。 カーウェン氏の警告は、AIが単なる技術革新ではなく、教育そのものの価値を問い直す契機であることを示している。制度の変革は遅れているが、その必要性は今、最も明確に浮き彫りになっている。