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UK司法制度のAI導入、財政逼迫の根本問題を隠すだけの危険性

4日前

英国の司法制度は、長年にわたる財政不足により深刻な混乱に陥っており、訴訟の積み残しや法廷日程のキャンセルが相次いでいる。この制度はイングランド・ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの3つの独立した法体系から成り立っており、統合された運用が難しい状況にある。こうした課題に対し、トニー・ブレア研究所やポリシー・エクスチェンジなどのシンクタンクが、人工知能(AI)を解決策として提唱。特に大規模言語モデル(LLM)を活用し、事務作業の自動化によって法務担当者が当事者との対話や人間的な判断に集中できるようにするという期待が高まっている。 2025年1月、労働党政権はAIを「成長を加速し、公共サービスを革新する」ための戦略として発表。AIの活用は、文書の要約、会議記録の作成、判例検索の支援といった行政業務の効率化に焦点を当てている。既にロイヤル・ベイリー裁判所ではAIを活用して証拠概要を処理し、5万ポンドのコスト削減を達成している。 しかし、こうしたAIの導入には重大な懸念がある。2025年6月、英国の高級裁判官が、LLMが「架空の情報(ハルシネーション)」を生成するリスクを警告。また、内務省のパイロット調査では、AIによる難民申請書類の要約の9%が誤り、23%の利用者が信頼できないと感じた。こうした誤りは、人間の専門的判断がなければ発見できない。 2025年7月に発表された司法省のAI行動計画は、AIが「人間の判断を補助する」ことを明言。AIオフィサーの設置や倫理フレームワークの整備も進んでいる。しかし、暴力リスクの評価など、より問題のある用途も含めて推進が進んでおり、実際の運用には不十分な理解が伴う可能性がある。 専門家は、AIが人手不足や資金不足の「穴を埋める」手段にはなり得ず、むしろ弱者層の権利侵害を助長するリスクがあると指摘。過去のデジタル化政策で、無実の罪を認める女性が増えるなど、不平等が拡大してきた歴史がある。AIは、人間の監視が十分に確保される場所でこそ有効だが、資源が乏しい現場では、誤りが発生しやすく、結果として訴訟の積み残しをさらに悪化させる恐れがある。 結局、AIは「穴を埋める」道具ではなく、制度の根本的な問題——長年の財政削減——を解決するものではない。むしろ、問題を表面的に隠す「穴を埋めるパッチ」に過ぎない。真の改革には、人間中心の司法体制の再構築と、適切な資源配分が不可欠である。

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