AIの未来を拓く巨人:デミス・ハサビスが語るコードで描く宇宙、AGIと意識の謎
グーグルDeepMindの共同創設者であり、ノーベル賞受賞者のデミス・ハサビス氏が、レックス・フリードマンとの長時間インタビューで、人工知能(AI)の未来、現実世界のシミュレーション、さらには宇宙の本質にまで及ぶ壮大な考察を展開した。この2時間を超える対談は、技術的成果の説明を超えて、科学者としての哲学的思索と、人類の未来に対する深い期待が交錯する内容だった。 ハサビス氏の核心的な考えは、「自然界に存在するすべてのパターンは、古典的な機械学習アルゴリズムによって効率的に発見・モデル化できる」という仮説にある。AlphaGoの将棋戦略から、AlphaFoldによるタンパク質構造予測まで、彼の研究はこの仮説を実証してきた。特に、自然界の複雑な現象——山の形、惑星の軌道、小惑星の輪郭——は、進化や物理法則による「選択圧」によって「非ランダムな構造」を持つとし、その構造をAIが学習することで、膨大な探索を回避できると説明した。この思想は、理論計算機科学の未解決問題「P=NP」にも関連し、宇宙そのものが情報処理系であるという見方を裏付けている。 AIが物理世界を「直感的に」理解できる点にも注目した。最新の動画生成モデルVeoは、物理的挙動、光の反射、液体の流れを自然に再現しており、これは「直感的物理学」の理解を示しているとハサビス氏は評価。彼は、AIが実世界との直接的な体験(具身知)なしに、大量の動画データから物理法則を学習できることに驚きを示した。この現象は、自然の構造が普遍的であることを示唆しており、AIが「観察」によって世界を逆解析できる可能性を示している。 彼の夢の一つは「仮想細胞」の構築だ。25年以上にわたり追求してきたこのプロジェクトは、酵母細胞のような単純な生命体を完全にコンピュータ上で再現し、生命の起源や細胞内動態をシミュレートすることを目指す。AlphaFoldがタンパク質の構造を解明したのなら、次はその相互作用と動的挙動をAIで統合し、生命の「出現」を再現する。これにより、実験のスピードを百倍に加速し、生物学の進歩を飛躍的に促すことが可能になる。 ゲームへの情熱も、彼のAI観に深く関係している。彼は「ゲームは私の初恋」と語り、AGIの評価基準として「愛因斯坦が新しい理論を発見したような『灯台の瞬間』」を挙げる。単なる戦略の最適化ではなく、創造性と美しさを兼ね備えた新しい枠組みを生み出す能力こそが、真の一般人工知能(AGI)の証だと考える。現在のAIは「山登り型の改善」に長けているが、Transformerのような「パラダイム転換」はまだ見られない。 算力とエネルギーの課題についても言及。AIの進化は単なる計算量の増加ではなく、研究と工程の融合が鍵だと強調。また、今後の需要は「訓練」ではなく「推論」に移行すると予測。エネルギー面では、DeepMindがデータセンターの冷却や電力網最適化、さらには核融合反応制御にAIを活用している。彼は太陽エネルギーと核融合の両方を「人類が次の文明レベルに進む鍵」と見なし、クリーンで安価なエネルギーが実現すれば、海水淡水化や宇宙輸送のコストが劇的に下がると展望する。 最後に、AIのリスクについても言及。ハサビス氏は「P(Doom)」——AIが人類文明を破壊する確率——を明言しないが、「ゼロではない、かつ無視できない」と断言。技術の悪用や、自律性の高いAIの「安全装置」の維持が最大の課題と指摘。彼は、技術に「人間らしさ」、すなわち精神的・倫理的な次元を加える必要があると訴えた。人間が意識を持つ理由は、行動と同一の基質(生物的)に存在するからだ。しかし、AIはシリコン基質上に存在するため、その「感覚」は理解できない。この同理心の限界こそが、人類が直面する新たな哲学的挑戦である。 結びに、彼は人類の「無限の創造性」と「驚くべき適応力」に希望を見出す。狩猟採集時代の人間が、今やAIと対話できるようになった。これは進化の次のステップだと締めくくった。