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AIが加速する量子計算研究:3種類のAIモデルで大規模量子系を解明する新潮流

4日前

上海交通大学の吴亚东准教授とシンガポール国立大学の杜宇轩博士ら、13の国際機関に所属する研究者らが、AIによる量子計算研究の加速可能性を検証する包括的レビュー論文を発表した。この研究は、AIが量子情報科学における「指数の壁」とされる大規模量子系の記述・解析の課題を克服する可能性を示している。 量子力学は半導体やレーザーなど現代技術の基盤を築き、21世紀には「it from qubit」と称される第二次量子革命が進展。量子コンピューティングや量子通信の実用化が進む一方、量子状態が持つヒルベルト空間の次元が量子ビット数に指数関数的に増大するという根本的な制約が、シミュレーションや実験の限界を生んでいる。この課題に対し、2022年以降のAIブームにより、データ駆動型のAIモデルが大規模量子系の学習に有効であることが明らかになった。 本レビューでは、機械学習モデル、深層学習モデル、基礎モデル(大規模言語モデルなど)の三つのAIアプローチを体系的に検証。これらのモデルは、量子シミュレーションや量子コンピュータ実行から得られる複雑な量子状態を効率的に解析し、物理的性質を高精度で予測する能力を持つ。特に、量子系の「古典的代理モデル」(classical surrogate model)の構築において、AIは指数的な複雑性を回避しつつ、実験コストを大幅に削減できる。 研究チームは、AIと量子物理の両方の視点を統合するため、米国、欧州、アジアの13の機関にまたがる国際的専門家を招集。量子情報の権威であるカナダ・ロイヤル・ソサエティ会員のBarry Sanders氏、ドイツ・ベルリン自由大学のJens Eisert教授、香港大学のGiulio Chiribella教授、およびAI分野のリーダーであるDacheng Tao教授らが共同執筆に参加。特に、AIと量子物理の背景を持つ研究者同士の視点の対話が、論文の構成と内容の質を飛躍的に高めた。 論文は、AIが単なるツールにとどまらず、「仮想科学者」として未知の量子現象の発見や、新たな実験設計の提案に貢献する可能性を示唆。今後は、量子回路最適化、量子エラー訂正、ハードウェア設計などへの応用が期待される。 本研究は、AI for Scienceの新たな地平を切り開く重要な一歩であり、量子情報科学の進展を加速する基盤となる。論文はarXivに掲載され、今後の研究に大きな影響を与えると予想される。

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