AIが高精度な海洋シミュレーションを実現、10年先まで物理的に整合した予測へ
カリフォルニア大学サンタクルーズ校の応用数学者アシェシュ・チャトパドヘイ教授らの研究チームが、AIを活用した新しい海洋モデルを開発し、グulf of Mexico(メキシコ湾)の海洋動態を従来の物理モデルを上回る精度で再現することに成功した。この研究は、AIが長期的な海洋変動を「物理的に不自然な誤り(ハルシネーション)」を起こさずに10年先まで正確に予測できることを実証しており、地球科学分野におけるAIの実用化に重要な一歩を踏み出した。 メキシコ湾はエネルギー生産(オフショア油田)、物流、観光などに重要な役割を果たしており、特に湾流の巨大渦が発生する地域で、ローカルな波や異常波が発生し、作業現場に危険を及ぼす可能性がある。従来の高解像度物理モデルは、計算コストが高く、速度が遅く、精度に限界があった。一方、AIモデルは学習に初期投資が必要だが、従来モデルより最大10万倍速く動作可能。しかし、長期間のシミュレーションで物理法則から逸脱する「ハルシネーション」が課題だった。 研究チームは、物理的制約をAIモデルに組み込むことでこの問題を解決。まず、8km解像度の「大域的予測」をAIで行い、その後、その結果を4km解像度に「ダウンスケーリング」する2段階アプローチを採用。これは、写真の解像度をAIで高める技術に類似しており、不自然な強調ではなく、物理的に妥当な詳細を再現できる。この方法により、30日先の短期予測では従来モデルを上回る精度を達成。さらに、10年分の長期シミュレーションでも物理的に不可能な結果は一切発生せず、安定した性能を示した。 この研究は、UCSCと富士通のコンバージングテクノロジーラボラトリ、ノースカロライナ州立大学との共同プロジェクト。富士通のサブハシス・ハザリカ氏は、「軽量で高速かつ高精度な海洋エミュレーターは、船舶や港湾管理、異常気象監視などの実運用に即時統合可能」と強調。卒業生のレナード・ルピン=ジメネス氏は、富士通での共同研究を通じて、現場で使える実用性を重視した開発が行われたと語る。 この成果は、AIが科学的予測の分野で物理モデルを上回る可能性を示し、今後の海洋管理や気候予測の基盤技術として期待される。